【幸運の売人】
人生において、運の総量が決まっていたとして、それを自由に使えたら?って考えた事はない?
その
幸運の売人は老婆だとか、
俺には、どうしても幸運を
電車で二駅。
「あなた、幸運が欲しくない?」
「どんな願い事を叶えて欲しいの?それによって金額、若しくは寿命の量が変わってくるの」
「す、好きな人が居て……」
俺は少し
「それで?」
幸運の売人は、冷静に質問を口にした。
「彼女に告白しようと思ってるんです。何が何でも告白を成功させたいんです。幸運を売ってください」
「その位の幸運ならお安い御用よ。少し質問させて」
「はい」
「その彼女にはパートナーは居る?」
「居ません」
「そう……なら、より簡単ね」
「そうですか」
「年齢差や身分の差、国籍の違いなどは?」
「ありません。ただ、彼女は俺からすると高嶺の花です」
「なるほど……それは少しだけ値段が上がるわね」
幸運の売人は一瞬、目を下へやって、俺に言った。
「それで……幾らくらいになりますか。俺は学生なので、そんなに多くは出せないんです」
正直に幸運の売人に言うと、彼女は首を傾けてから、俺に
「じゃあ、成功率100%とはいかないけれど、一万円でどうかしら?十中八九、成功するくらいに運の総量を上げてあげる。もしも失敗したなら、お金は返すわ」
一万円か……。財布の中には三万円弱ある。痛い出費だが、払えないことはない。
「ちなみに100%だと、幾らくらいですか?」
「100%だと、途端に値段があがるわよ?桁2つは違うと思って」
100万!?そんな金はない。渋々、俺は財布から一万円札を取り出して、幸運の売人に手渡した。
「目を
数秒して幸運の売人が、もういいわよ、と呟いた。恐る恐る目を開けると、幸運の売人が手にしていたビー玉の様な物が粉々に砕けていた。
「これで幸運は貴方の物。その代わり、貴方の人生の運の総量は減ったわ。効果は24時間。もしも彼女に告白して振られたら、お金は必ず返す。明日もここに居るから、いつでも来て」
「分かりました」
正直、信じきれない思いはあったが、
次の日、彼女を校舎裏に呼び出して、気持ちを伝えることにした。何日も考えた
換金すると、一万円。昨日、幸運の売人に払った分の金が戻ってきた。凄い。幸運の売人の噂は本当だったのか。俺は興奮して、友人達に幸運の売人に会った事、実際に願いを叶えて貰った事を話した。
それから、何か困った事があると、幸運の売人に頼る様になった。彼女との初デートが上手くいくように願ったり、期末テストに自信がない時、金を払ってヤマ勘や、マークシートの的中率が当たるように願ったり。その全てを幸運の売人は叶えてくれた。
大学受験も、幸運の売人に頼った。その時の金額は10万。正直、出費は痛かったけれど、背に腹は代えられない。試験に出た微妙に分からない選択問題は、殆ど正解していた。おかげで俺はギリギリで大学に入学する事が出来た。
幸運の売人に払った最も大きい金額は50万円だ。
恋人が交通事故に巻き込まれて、大怪我を負って
「彼女が事故に巻き込まれて、生死の境を彷徨ってます。彼女を助けてください。ここに、俺の全財産があります!」
俺は鞄の中から、50万円を取り出して、幸運の売人に見せた。幸運の売人は、
「大切な人の命が掛かっているのに50万円?正直、足りないわね」
「残りは、俺の寿命を使ってください!」
「……それでも足りない。彼女が生還する可能性を引き上げる事は出来るわ。でも、50%まで。それでも構わないと言うなら、50万円と、貴方の残りの寿命で、願いを叶えてあげる」
「それでも構いません!彼女が生きる可能性が1%でもあがるなら!」
「分かったわ。目を閉じて」
俺はいつもの様に目を閉じた。
「もういいわよ。目を開けて」
彼女の手にあったビー玉の様な物は、いつもの様に粉々に砕けていた。
「早く彼女の元へ行きなさい。効果は24時間。貴方が近くに居ないと幸運はやってこない」
「分かりました!」
俺は急いで彼女の元へと向かった。
結果、彼女は一命を取り留めた。
俺は感謝を述べようと幸運の売人の元を訪れたが、いつもの場所に幸運の売人は居なかった。他の裏路地を覗いても、幸運の売人を見つける事は出来なかった。
幸運の売人。彼女が居なければ、俺の人生はどうなっていただろうか。願いを叶えて貰う時の様に、数秒、目を閉じて、俺はもう一度幸運の売人に会える事を願った。
私は幸運の売人。いや……本当は幸運を売りものにする詐欺師だ。こんなに儲かる仕事はない。誰しもが願いを叶えて貰おうと私の元を訪れるが、本人の努力が実っているだけなのだ。人は最後に神に頼るが、本当に
I'm an atheist and I thank God for it.
私は無神論者だが、そのことを神に感謝している。
[ ジョージ・バーナード・ショー]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます