【CUT】

 ショートヘアーの彼女と別れる事にした。


 彼女の事が、本当に好きだった。正直に言うと今でも好きだし、気持ちはずっとグラついている。それでも二人の将来を考えれば、別れた方が良いのだと、僕は断腸の思いで彼女に別れを告げた。


 彼女との出会いは、僕の働いている美容室に、彼女が客としてやってきた夏の終わり。セミの鳴く声がようやく消え始めたのを、今でも覚えている。彼女は真っ黒で長い髪をバッサリと切ってちょうだい、と言った。


 明るくて、芯のある女性だな、という印象を持った。彼女はそれからも一カ月に一度のペースで僕の店に来てくれた。ある日渡された手紙に、彼女の連絡先が書いてあった。僕は彼女にいつの間にか恋をしていたので、直ぐに連絡した。燃え上がるような恋だった。








 彼女は既婚者だった。


 僕は彼女の一番になりたかったけれど、それは叶わなかった。







 別れを告げた後、彼女からメッセージが届いた。恐らく、これが本当に最後になるだろう。僕は切なくて、泣きそうになりながら、メッセージを開いた。








「髪を伸ばすね」


 どうして?


「彼女が出来たら、教えてね」


 どうして?


「髪を切るから」


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