【裏切りコンフェッション】



「好きな人が出来たの。結婚しようと思ってる」


 突然の裏切り。俺は、驚いて手にしていたコーヒーカップを落としそうになった。彼女とは、俺が高校を卒業した頃からの付き合い。もう何年も一緒に居る。これからも彼女とはずっと一緒に居るんだと、そう信じていたのに。


 時刻は午後5時。


 喫茶店には俺達、二人しか居ない。ゴールデンタイムも過ぎて、暇そうにしているウェイトレスが、コップに水のおかわりを入れに来た。店内に広がる、コーヒーの香りを感じながら、俺はショックでプルプルと震えた。


「どんな奴?」

「とても良い人よ」


 そいつは俺よりもお前の事を愛せているのか。俺よりもお前を幸せに出来るのか。俺よりも金を持ってるのか。力は?趣味は?年齢は?社会的地位は?


 思わず色々な事を尋ねそうになったが、口をついて出たのは、意外にも祝福の言葉だった。


「そうか……おめでとう」

 もう彼女とは一緒に居れないのかも知れない。別れの雰囲気が、店の中に充満した。


「その……彼とは何処で出会ったんだ?」

「高校の時の同級生なの」

 ちょっと待て。その頃は俺と一番良好な関係を保ってた時じゃないか。俺に隠れて、恋人を作ったのか?俺は怒りで顔が真っ赤になるのを感じたけれど、優しい口調で彼女をさとす事にした。


「結婚するには早いんじゃないか?まだまだ若いんだし」

「自分の胸に手を当ててよ。言えた義理じゃないわよ」

 駄目だ。彼女の事はとても大好きだけれど、一度決めた事を彼女が諦めたり、止めたりした所を俺は見たことがない。







「今度、紹介するわね、お父さん」






 俺は彼女……娘の由衣ゆいからの言葉に、はあ、と溜息をいた。

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