【我儘赤ずきんと口下手狼くん】


「狼くんだ……」


 昼休み、軽音楽部の部室の窓から、「狼くん」の姿が見えた。


 正確には大神おおがみ清史郎せいしろう。両耳に開いたピアスに、アッシュグレーの髪。苗字とその容姿から、渾名あだなが「狼くん」。強面こわもてと言うのも相俟あいまって、クラスメイトの皆から悪い意味で注目されている。距離を置かれる存在だ。


 端的に言って、怖い。無口で、ギョロリとした猛禽類もうきんるいのような瞳に、光る八重歯は、肉食獣を思わせる。本当に「狼」そのものだな、と私も思う。周りの皆の様に、偏見がある訳ではないけれど、笑顔一つ見たことがないので、私自身も距離を感じていた。もう少し柔和な表情をすれば良いのに。


 私の名前は赤井あかい姫月ひめき。渾名は「赤ずきん」。ド派手に染めた赤い髪に、いつもきつめのメイクをしてる。軽音楽部に所属していて、バンドではヴォーカル担当。バンドメンバーから言わせると、音楽に一切の妥協だきょうをしない辺りが、めちゃくちゃ我儘わがままで、自己中心的だと言われる。悪かったな。


 趣味は動画編集。所属しているバンドで演奏した曲なんかを編集して、動画サイトにアップするのが好きだ。音楽は、言葉を超えて、全世界に響き渡る。評価ボタンの一つ一つに一喜一憂する毎日。賞賛のコメントなんか来た日には、眠れなくなるほど嬉しくて、ベットに入ってからもスマートフォンでコメントを読み返して、嬉々とした気分を反芻はんすうする。


 動画サイトでは同じ様な動画をアップしている人は沢山居る。私が動画を上げているサイトは、どちらかと言えば若年層向けのサイトで、中高生が中心だ。私達のバンドは、自分で言うのもなんだが、それなりに人気で、他校の生徒からファンレターを貰う事も多々あった。


「あ!今日もルーが動画上げてる!」

 私の一番のお気に入りのギタリストが、新しく動画を上げていた。顔は出していないが、少し低めの落ち着いた声が、面白い企画や、カッコいいオリジナルソング、超絶ギターテクニック等の動画とマッチしている、人気の配信者だ。


「ルーの動画、いつ見ても面白いなあ。どんな人が配信しているんだろう?」

 気にはなるけれど、それを知る手段はない。その日は、ルーの動画を見ながら、眠りについた。









 ああああ!友達が欲しいな!


 俺の名前は大神清史郎。渾名は「狼くん」。いつの間にか付けられていた、そのいかつい渾名の所為せいではないと思うけれど、俺の周りには、全く人が寄り付かない。入学して半年。そろそろ心が折れそうだ。


 昔から、人との距離を縮めるのが苦手だった。自分から話しかける勇気も根性もない。ロシア人だった祖父の遺伝で、髪の色はアッシュグレー。染めていると思われがちだが、地毛である。耳に開けているピアスは、毎年、祖母がくれる誕生部プレゼント。気に入っているけれど、これを付けているのも、ひょっとしたら人が寄り付かない理由なのかも知れないなあ……。


 友人が居ないので、学校が終われば、いつも真っ直ぐに帰宅する。近場で自由な校風の学校を選んだので、通学時間は、とても短い。暇を持て余して、始めたのが、動画サイトへの投稿。小さな頃から、ギターが好きで、主に洋楽のコピーをしていた。最近は、オリジナルソングなんかも作っている。


「お!ロートさん、またコメントくれてる!」

 俺が動画をアップし始めた頃からの、俺のファンで、動画をアップすれば必ずコメントをくれる人。所謂いわゆる、古参ってやつだ。長くて熱いコメントに嬉しくなって、こちらも長文のコメントを返す。ロートさん。どんな人なんだろうか。


 性別も年齢も分からないけれど、俺は、ロートさんに親しみを感じていた。


 ロートさんはロック系の音楽が好きな様で、「J-POPをハードロック調にアレンジしてみた」という、俺の企画が大好きだ。ロートさんからのコメントが欲しくて、今回、作成しているのも、某有名アイドルの曲をハードロック調にアレンジしたもの。録音機材を使いながら、俺は気合いを入れて、夜中までギターを弾いた。


「明日はライブでも見に行こうかな……」

 家から二駅の所に、行きつけの小さなライブハウスがある。そこのマスターと俺の祖父は旧知の仲で、俺は暇な時や、寂しい時、そのライブハウスに行って、気分をまぎらわせていた。


 次の日の夕方。金曜日だからだろうか。それなりにライブハウスには人が入っていて、俺は少し窮屈きゅうくつな思いをしながら、バーカウンターに向かった。マスターが、俺がいつも注文するエナジードリンクを紙コップに入れてくれる。俺はマスターに頭を下げて、一口、口にした。後ろから、ゆっくりバンドの演奏を聞こうと思って、会場の後方に向かう。


 何組かのバンドの演奏が終わって、トリのバンドが出てきた。何処かで見た顔だな、と思って、会場の中央に移動した。同じ高校の軽音楽部の連中だ。へえ、このライブハウスで演奏していたのか。ここ最近、来ていなかったから、知らなかったな。


 ふと周りを見ると、俺を中心にして、何人かの客が距離を取り始めた。さっきまで出来ていた人だかりは、穴の開いたドーナツの様。いつもの事だけど、少しショックだ。


 演奏が始まった。


 まだまだ未熟なサウンドだったけれど、聞いていて魅かれる物がある。ヴォーカルの赤い髪の女の子は、クラスメイトだ。名前は……確か赤井姫月、だったかな。渾名は「赤ずきん」。真っ赤な髪がトレードマーク。俺は身体からだでリズムを取りながら、その音の乗った。ステージで一所懸命に歌う姿は、好感が持てる。


「それじゃあ、次の曲にいきます!私の好きなギタリストの曲です!」






 俺の作った曲が鳴った。






 次の週の月曜日、俺はドキドキしながら登校した。まさか赤井姫月に動画を見られていたなんて、思いもよらなかった。いや、動画を見ているのは、赤井姫月じゃなくて、バンドのメンバーかも知れない。グルグルと、色々な事が頭の中を渦巻いた。恥ずかしくて、どう振舞えば良いのか分からずに、席に着いた。


「狼くん!先週の金曜日、ライブハウスに居たよね?音楽好きなの?」

 赤井姫月が登校するなり、俺の席まで駆け寄って、顔を近づけて言った。


「え?な、なんのこと?」

「狼くんの周り、人が居ないから目立ってたよ。ばっちり確認したし。私、視力、めちゃくちゃ良いんだから!」

「……」

「狼くんって無口だよね。でもロック好きに悪い人は居ない!今日の昼休み、軽音楽部においでよ」

「……」

「部員が減って、大変なんだよね~。取り合えず、見学だけでもいいから!じゃあ、待ってるね!」

 嵐みたいな女の子だな、と思って、俺は頭をかかえた。すげえ我儘で自己中心的。けれど、俺が動画配信者だって事はバレてなさそうだ。う~ん。まあ、これも何かの縁だ。待望の友人ができるかも知れない。俺は決意を固めて、昼休みになるのを首を長くして待った。


 昼休みになった。


 軽音楽部の部室の前まで行くと、赤井姫月……「赤ずきん」のバンドが演奏している所だった。金曜日に聞いたサウンドだ。一朝一夕に上達する訳もなく、目新しい事はなかったが、ライブでは演奏していない曲をしていたので、耳を傾けた。ギターのリズムが少しズレてる。ドラムに力強さを感じない。ベースも運指うんしが苦手そうな印象を受ける。演奏を終えて、赤井姫月はメンバーにダメ出しを始めた。


 ダメ出しの途中で、赤井姫月が、俺が部室の前に居るのに気づいて、無理矢理に俺の袖を掴んで、部室に引っ張り込んだ。


「狼くん!何か楽器弾ける?」

「……」

 ここでギターが弾けるって言ってしまうと、軽音楽部に無理矢理入部させられそうだ。友人が出来るかも知れないので、入部する事自体は別に嫌ではなかったが、先ずは軽音楽部の部員達の性格などを把握したかった。


「ギター弾けるけど……そんなに上手くない」

「そうか!ギターか!」

「うん」

「部員にギタリストは多いから、色々教えて貰えるよ!さあ!兎に角、入部しよう!」

 赤井姫月は鞄の中から入部届を取り出して、俺の顔に近づけた。


「ちょっと考えさせてほしい」

「むむむ……何か懸念けねん事項でもあるの?」

「懸念……って訳じゃないけど、即決即断は苦手なんだ」

「男らしくないよ!」

「うるせえな」

 あ、少しキツイ言い方をしてしまった。怖がらせてしまったら、どうしよう、と焦ったが、後の祭りだ。恐る恐る赤井姫月を見ると、ムッとした表情で言い返してきた。


「何よ!ビビッてんの?このヘタレ狼!」

「ああ?何だと、この我儘赤ずきん!」

「じゃあ、ヘタレじゃないところ見せてみな。名前書くだけだよ?それとも名前の書き方も分からないのかなあ?」

「上等だよ」

 俺は赤井姫月の差し出した入部届に、素早く自分の名前を書いた。


「大神清史郎。狼くんって下の名前、清史郎って書くんだね。これから、よろしく!」

「あ……」

「もう遅いよ。今から狼くんは軽音楽部の一員ね。放課後は毎日、部室に来るように」

「くそ……ハメやがったな」

 赤井姫月は、ふふふ、と笑って俺が名前を書いた入部届を鞄の中に仕舞った。



 その日の放課後、日直だったので教室に残って日誌を書いていると、赤井姫月がやってきた。



「狼くん!早く部室においでよ!」

「今、日誌書いてんだよ!」

「そんなもん、適当に書けばいいじゃない。貸してみな」

 赤井姫月は俺から強引に日誌を奪った。その時に、日誌の紙が俺の右手の人差し指をかすめて、少し血が出た。


「あ……」

「くっそ。痛ぇな」

「ご、ごめん」

 赤井姫月は鞄の中から絆創膏を取り出して、俺の手を掴んだ。そのまま一周する様に、俺の右手の人差し指に絆創膏を張る。可愛いキャラクターの描かれた絆創膏だ。こんなの付けてるの、俺のキャラじゃねーな、と思いながらも、親切を断る訳にもいかずに無言でその様子を見ていた。


「本当にごめんね」

「いいよ。こんなの、つばでもつけてりゃ治る。大袈裟だよ」

「でも、傷つけたのは事実だし、ちゃんと謝りたい」

 へえ。我儘って言われてるけど、案外、しっかりしてるんだな、と思って、俺は首を横に振った。


「俺もお礼を言ってなかったな。ありがとう」

「そんなそんな!」

「兎に角、日誌終わらせようぜ」

「そうね」

 赤井姫月は日誌をめくって、サラサラと日誌にペンを走らせた。


「おい。なんか早くねーか?」

 なんだか怪しいな、と思って日誌を覗き込むとほとんどの項目が「特になし」になっている。


「おい!そんな適当にすんなよ!」

五月蠅うるさいわね!早く部室に行くわよ!」

 前言撤回。この女、マジで我儘だ。





 苛々いらいらしながら帰宅した。ストレス解消に生配信するか。久しぶりの配信だ。制服から着替えて、三脚を立てて、スマートフォンを所定の位置に置く。ボタンを押して、配信を始めた。最近流行りのK-POPアイドルの曲をロック調にして演奏する。段々とストレスが消えていくのを感じた。やはり、音楽ってのは良いな。







 大神清史郎。本当に細かいな!私は苛々しながら帰宅した。ふと、スマートフォンを見ると「ルー」が配信しているという通知が来ていた。


「こんな日はルーの配信を見るに限るわ!」

 早速、配信中のボタンを押す。


「え……」

 ルーがギターを弾いている右手の人差し指には、今日の放課後に大神清史郎の指に巻いた、キャラクター物の絆創膏があった。


 そんな……まさかね。私は頭をブンブンと振って、ルーの配信に集中した。途中でコメントが流れてきて、「ルー」のハンドルネームの由来に質問が飛んでいた。


「あー。ハンドルネームかあ。まあ、適当にフランス語でカッコいいのを付けただけ」

 私は直ぐにフランス語で「ルー」の意味を調べた。





 狼。



 私は確信した。





 次の日、大神清史郎に話し掛けられなかった。まさか、自分の憧れの人が、皆に「狼くん」って呼ばれてる口下手で強面の男の子?そんなはずはない。私の中の「ルー」のイメージとは、真逆だ。聞いてみたい気持ちもあったが、何故か大神清史郎に上手く話し掛ける事が出来ずに、私は放課後になるのを待った。






 あー、昨日、配信してしまったけど、よく考えれば、赤井姫月にバレてるかも知れないんだよな、と思いながら登校した。まあ、学校での態度を見る限りは大丈夫だろう。でも、ちょっと安直な事をしてしまったかな。


 赤井姫月は何だか元気がなくて、虚ろな目でくうを見つめていた。なんか変だな、と思いながら昼休みに赤井姫月に話し掛けた。


「おい、赤ずきん。なんか元気ないぞ」

「え?そ、そんな事ないよ」

「嘘つけ。なんかあったのか?」

「大丈夫。ちょっと熱っぽいのかなあ」

「保健室……行くか?」

「それ程じゃないよ」

 そうか、と言って俺は自分の席に戻って、弁当の箱を開けた。放課後、軽音楽部の部室に行くか……。俺は、無理矢理入れられた部活に、少し愛着が湧いていた。


 放課後になった。部室に行くと、赤井姫月と赤井姫月のバンドのギタリストが揉めていた。


「なんでバンド辞めるのよ!」

「いや……受験勉強に集中したいんだよ」

「プロになりたいって言ってたじゃん!」

「そりゃあ、なりたいけど、別に大学に入ってからでも、音楽は出来るし」

「そんな気持ちでプロになれるとでも思ってんの!?」

「うっせーな!皆が皆、お前みたいに真剣にプロになりたい訳じゃねーんだよ!俺は楽しく部活して、上手くなって、その延長線上にプロって道もあるかな、って思ってんだよ!お前と一緒にバンドやるの、しんどいよ!じゃあな!」

 ギタリストは肩にかけていたギターをケースに仕舞って、部室を出て行った。他のメンバーは無言で、その様子を見ていた。赤井姫月は涙をこらえながら、椅子に座った。


 気まずいなあ、と思いながらも、俺は部室に入った。


「狼くん……」

「よお。見てたぜ。ギター、抜けるんだってな」

「そうなのよ……来週のライブ、どうしよう」

「まあ……アクシデントがあったって言って、ライブ中止すれば?」

「折角、お客さんも増えてきて、ライブハウスのマスターにも気に入られ始めたところなのよ。ここで止めたくない」

「……」

「ねえ、狼くん。私のバンドでギター弾いてくれないかな?しばらくのヘルプで良いから!一生のお願い!」

 赤井姫月は両手を合わせて、頭を下げた。


「……」

「だめ?」

 上目遣いに聞いてきた赤井姫月の願いを断る事が出来ずに、俺は首を縦に振った。


「やったー!じゃあ今から練習ね」

「ヘルプだからな!わかったよ……で、何の曲やんの?」

「えーとね」

 赤井姫月は楽譜バンドスコアを持ってきて、俺に見せた。


「これとこれとこれとこれと」

「多いな……」

「じゃあ、来週までにマスターしてきてね!」

「はあ!?」

「狼くんなら出来るよ」

「……」

 俺は諦めて楽譜に目を通した。まあ、これくらいの曲なら、数日でマスター出来るか……。俺はうなずいて、楽譜を鞄に仕舞った。





 帰宅して、直ぐに練習に入った。全部で5曲。それなりに難しい曲もあったが、何とかなるだろう。ヘッドホンで曲を鳴らしながら、ギターを鳴らした。


「ようやく傷も消えたな」

 右手の人差し指に付けていた絆創膏を剥がして、ゴミ箱に捨てた。


「ねえ、清史郎!私の口紅知らない?」

 突然、姉の星香せいかが部屋に入ってきて、俺に尋ねた。俺と違ってコミュ力抜群。大学では人気者。顔の造形は似てるのに、なんで星香には友人が多いんだろう。


「口紅?そんなの、俺が知る訳ないだろ」

「あれ、高かったのになー!ロートってブランドのやつなの。何処かで見かけたら教えて」


 ロート?


「姉さん、ロートってどういう意味があるの?」

「え?ドイツ語で『赤色』よ」

「へえ〜」

「なんで、そんな事聞くの?」

「いや、ちょっと気になって」

「変なの。それよりアンタ、ギターばっかりやってないで、たまには勉強もしなさいよ」

「分かったよ」

 姉は俺の部屋を出て、ドタドタと階段を降りて行った。赤色。赤色か。






 次の日の放課後、初めて赤井姫月のバンドと音合わせをする事になった。


「じゃあ、せーの!」

 ドラムがリズムを取り始めて、俺はイントロのギターフレーズを弾き始めた。その音に乗せて、ベースがメロディラインをなぞる。赤井姫月は目を見開いて、俺達の演奏に満足そうにしながら、歌い始めた。


 曲が終わって、赤井姫月は拍手しながら俺に言った。


「流石、狼くん!」

「……」

「いやあ、私の目に狂いはなかったなー」

「……」

「な、なによ」

「赤ずきん、後で話がある」

「え?」

「練習終わったら、部室に残っててくれ」

「わ、分かったわ」

 それから、何曲か演奏して、その日の練習が終わった。


 バンドメンバーや部員達が部屋を出たのを確認して、俺は赤井姫月に尋ねた。


「なあ……もしも勘違いなら無視してくれ」

「なに?」

「お前、『ロートさん』か?」

 ビクッと赤井姫月の身体が揺れた。


「そうよ、『ルー』。貴方のファンのロートです。狼くんがルーだって知ったのは最近だけど」

「なんで分かった?」

「日誌で指を切った日……私が貼ってあげた絆創膏。あれ、割と珍しいキャラ物の絆創膏なんだよね」

「……ミスったな」

「なんで狼くんは、私がロートだって分かったの?」

「昨日、偶然『ロート』がドイツ語で赤色だって知ってね。あと、俺、ギターはそんなに上手くないって言ってたのに、ギタリストが抜けた穴を俺に頼んだ時、お前、『狼くんなら出来るよ』って確信めいて言ってたんだよ。あれ、凄い違和感あってな」

「……私もミスったね」

「そうだな」

 赤井姫月は、溜息をいて俺に言った。


「ルーくん。いや、狼くん。私、昔からファンでした!」

「うん」

「ファンなんで、色々質問させてよ」

「いいよ。この際だ。何でも聞いてくれ」



「狼くん、どうして貴方はいつも怖い顔をしてるの?」

「本当は笑いたいけど、知らない人の前だと緊張してしまうんだよ」

「狼くん、どうして貴方の髪の毛はアッシュグレーなの?」

「祖父がロシア人なんだよ。別に染めてる訳じゃない」

「狼くん、どうして貴方の耳には沢山のピアスが付いてるの?」

「祖母が毎年の誕生日にくれるんだよ。自分でも気に入ってるし」




「狼くん、どうしてこんな我儘な私の事を、助けてくれたの?」

「……」

「ねえ、どうして?」

「お前が……す、す、す」

「す?」

「好きだからだよっ!」

「それはLIKE?LOVE?」

「わかんねーよ!」

 狼くんは、耳まで真っ赤にして、吐き捨てる様に言った。


「ねえ、狼くん。貴方のお耳はどうしてそんなに真っ赤なの?」

 その問い掛けには、狼くんは答えてくれなかった。


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