【教授との雑談:ABCD×9=DCBA】

『教授』と出会ったのは、母校での教育実習だった。彼は僕と同じ年で、日本で5本の指に入るであろう大学で、物理を学んでいる男だった。ちなみに、今度、日本最高学府の院試を受けるらしい。なんとなく、イメージでつけたアダ名が教授。


初対面の印象は「キモいヤツ」だった。

毎日、机に向かって勉強ばかりしてそうなつらをしていた。世の中の人間、全てをバカにしているような目をしていた。そして、実際その通りだったのだが、何故か気が合った。


話してみると、教授は意外に面白いヤツだったのだ。






「ABCDって4桁の数字がある。

この数字に9をかけると、DCBAになる。

ではABCDはどういう数字でしょうか」


教授から出された問題の中で、最も簡単だった問題がこれだ。


ホワイトボードに一つ一つの数字を明かして、数分で解いた。


そして、最後にQEDとピリオドを打った。


「今回は簡単だったかい?」

「そうだな」

「でも面白かったでしょ?」

「うん。隠れているものを解き明かすのって面白いよな」




僕達は、毎回毎回、問題を抱えては、それを必死で解き明かす。



「教授はどうして、物理学を専攻したの?」

僕は常日頃からの疑問を口にした。

教授は満面の笑みで答えた。

「僕に解けない問題があるからだよ」




そう。問題は解けないほど面白い。

それを解こうとする過程が一番面白いんだ。

解答が出ないからといって、放棄すれば、そこで楽しみは終わる。


「人生も過程を楽しむことが大事なのかな」

でも、僕はまだ、答えを探してる。

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