【メリーさんの電話】‪‪❤︎‬


 深夜0時。携帯が鳴った。非通知。悪戯いたずら電話かな?俺は少しいぶかしんだが、誰からだろうと言う好奇心が勝って、携帯に出た。


「もしもし…」

 すると、電話の相手が低い声でこう言った。


「もしもし…私、メリーさん」

 電話の向こうから聞こえてきたのは、抑揚のない少女の声。うわあ!これって都市伝説のメリーさん!?


『メリーさんの電話』と言うのは、とある少女が外国製の人形を捨てたら、その人形から電話が掛かってきて、段々と家に近づいてくると言う都市伝説ホラーだ。何度も電話を掛けてきて、「今はタバコ屋の角に居るの」と言う風に、少女を脅す。最終的に「今、貴方の家の前に居るの」と告げられた少女が、玄関のドアを開けると誰も居ない。すると、電話が又掛かってきて、最後にメリーさんはこう告げる。






「私、メリーさん。今、貴方の後ろにいるの」






 俺は悪戯電話だろうとたかくくって、メリーさんと名乗る少女に冗談交じりに言った。


「あ〜!メリーさん久しぶり!今は何してるの?」

「え……え〜と、私、メリーさん、今、コンビニに居るの」

 メリーさんと名乗る少女は、動揺しながらも俺からの問いかけに答えた。


「何処のコンビニ?」

「私、メリーさん!あの……駅の近くのコンビニ。え〜と、何か要る?」

「そうだな〜。ポテトチップスのうす塩味と、コーラとアイスが欲しいな。」

「私、メリーさん……ぐすっ……今、500円しかないの……」

 500円しかないのかよ!そして、お金が足りないからって泣くな!


「そうかあ、じゃあアイスは要らないし、ポテトチップスも小さいので良いよ」

「私、メリーさん!後でお金貰うから!」

「分かったよ」


 俺はクスクスと笑いながら電話を切った。愉快な少女だったな。明日、大学に行ったら、皆に話そう。良い話のネタが出来たわ。


 俺は腹が減ったので、湯を沸かしてカップ焼きそばを食べる事にした。一人暮らしの強い味方。深夜に食うカップ焼きそばは格別だと思わない?炭水化物は罪の味がするよな。


 ティファールでお手軽にお湯を沸かしていると、又携帯が鳴った。


「もしもし?」

「私、メリーさん……今、コンビニを出たの……」

「うん。そうか。それでどうしたの?」

「私、メリーさん!後、5分で着くの!」

「夜道に気を付けてね。ゆっくりで良いからね」

「私、メリーさん!感謝を述べるの!」

「うん。じゃあ後でね」

 可愛い。犬っころみたいだ。人懐っこくて、頭の良い小型犬って感じ。


 お湯が沸いたので、カップ焼きそばにお湯を注いで3分待つ。カップ焼きそばの湯切りの瞬間って、何故か少し緊張する。もしも間違えて、麺をこぼしてしまったら?と怖くなるんだよな。俺はシンクに丁寧にお湯を落とした。


 すると、又携帯が鳴った。しつこいな。


「もしもし!?」

 少し苛立って、電話に出た。


「わっ……私、メリーさん!少し迷ってしまったの……」

 迷ったのかよ!お前、都市伝説になる様な存在なんだから、そこは何とかしろよ!


「俺の家、知ってるのかよ」

「私、メリーさん!当然でしょ!」

「何処で迷ったんだよ」

「私、メリーさん……橋を渡った所……」

 なんだ、迷子か。悪戯かと思ってたけど、困って適当な番号に掛けたんだな。助けてあげるか。


「近くに交番あるか?分からなかったら、近くの人に聞いてみろ。怖くないからな。ちゃんと敬語使うんだぞ」

「私、メリーさん……やってみる……」


 携帯が切れたので、俺は作りかけのカップ焼きそばにソースを垂らした。かき混ぜると、ソースの匂いがツーンと鼻を刺激する。たまらないな!食欲が出てきた。


 ズルズルっと一気に頬張って、お茶で流し込んだ。美味しい。体に悪い物って、なんでこんなに美味しいんだろう。


 カップ焼きそばを食べ終えて、テレビの電源を入れた。しょうもない深夜番組を見ながら、ソファで仮眠でも取ろうと横になっていると、インターフォンが鳴った。


「はーい!何方どなたですか?」

 こんな深夜に来客か。嫌な予感がしたが、まさかな?と思って、俺はインターフォンの着信ボタンを押した。


「わ、私、メリーさん!今、貴方の家の前に居るの!ポテトチップスとコーラ、お持ちしたの!」

「え??マジ??」


 インターフォンのカメラに映っていたのは、金髪のロングヘアの美少女。ハーフっぽい顔立ちをしている。


「え??マジ??」

 さっきと同じ様に、驚きの感情を込めて、俺は言った。


「私、メリーさん……早くお部屋に入れて欲しいの……お外は寒いの……」

「いやいやいや!知らない人間を部屋に入れられる訳ないだろ!んん??そもそも人間なのか、お前」

「私、メリーさん!早くお部屋に入れて!入れてくれなきゃ、大泣きして近所から通報されるの!」

「脅迫かよ!!」

 俺は用心して、チェーンを掛けてからドアを開けた。


「私、メリーさん!これじゃ、お部屋に入れないの!!」

「だから、部屋に入れるかよ!これ、お遣いの料金!お釣りは要らないから、その袋を渡せ」

 千円札を手渡そうと、ドアから差し出した。


「私、メリーさん!拒否するの!」

「はあ?悪戯にしてはタチが悪いぞ!いい加減にしろ!」

「私、メリーさん!大泣きするの!」

 少女は大きな声を上げて、うわあああん、と泣き始めた。ヤバい!このままだと、近所の人から変な目で見られる。最悪、ロリコン変質者と言う汚名をこうむるかも知れない。


「あああ!もう!仕方ないな!」

 俺はドアのチェーンを外して、ドアを全開にした。少女は直ぐに泣き止んで、部屋の中にズカズカと入ってきた。嘘泣きかよ。


「私、メリーさん!お腹が空いたの!」

 さっきまで俺が寝っ転がっていたソファに、ちょこんと座って、メリーさんと名乗る少女は食事の要求を始めた。


「いきなり人の家に上がり込んで、飯まで要求すんのか、この都市伝説!」

「私、メリーさん。好物はカップラーメン」

「あー、もう!分かったよ!味噌味で良いな?」

 俺はティファールの電源を入れた。




 食事を終えて、メリーさんが人心地付いたのを見て、俺はメリーさんの話を聞く事にした。


「なあ、お前は一体何なんだ?何処から来たんだ?目的はなんだ?」

 メリーさんは、目をぱちくりとさせて、微笑んで俺に言った。


「私、メリーさん。貴方の実家の押し入れから来たの。目的は貴方の役に立つ事」

「押し入れ?どう言う事?」

「私、メリーさん。貴方のお姉さんが可愛がってくれていた人形。お姉さんが居なくなって、とても寂しかったの」

「……そうか」


 姉さん。姉さんの人形だったのか。


 3年前、俺の姉さんは可愛い女の子を産んだ。天使の様な姪っ子。姉さんの生き写し。しかし、新しい命の誕生の代わりに、姉さんは居なくなった。元々、病弱だった姉さんは、出産に耐えられないかも知れないと言われていた。それでも産むと言う選択をした姉さんを、俺は責める事は出来ない。


「でも、なんで俺の所に?」

「私、メリーさん。動ける様になって、お姉さんが居ない事を知って、毎日泣いていたの。そんな時に、お姉さんがいつも私に言ってくれてた事を思い出したの。」

「どんな話?」

 俺は、もうメリーさんを信じていた。確かに姉さんは沢山の人形を持っていたし、よく見ればメリーさんの顔は、姉さんが小さい頃に大事にしていた外国製の人形に瓜二つだ。


「私、メリーさん。お姉さんは、いつも貴方を心配してたの。素行や成績が悪くて、人からよく勘違いされるけれど、本当は優しい子だって。何かあったら、助けてあげて欲しいって。だから今日、お菓子とジュースを買ってきてあげたの」

「うん……ありがとう、メリーさん」

 俺は泣きながら、メリーさんから受け取ったコンビニの袋を開けた。


「なあ、メリーさん、一緒に食べよう。今日は姉さんの誕生日なんだ。お祝いしよう」

「私、メリーさん!その意見に賛同するの!」

 俺は戸棚に置いてあったお菓子と、冷蔵庫で冷やしてある缶ビールを取り出した。


「コーラはメリーさんが飲めよ」

「私、メリーさん!コーラは大好き!」





 1時間後、酔っ払った俺は、先にメリーさんに風呂に入ってくるように提案した。そろそろ寝ないと。パジャマはどうしようか?メリーさんの身長は140センチくらい。これなら、俺のTシャツとスウェットを着せればいいだろう。


「私、メリーさん。お風呂は熱めが好き」

「そうなのか、じゃあ42℃で沸かすよ」

「私、メリーさん。シャワー派」

「じゃあ、ささっとお入り。パジャマは無いけど、着替え、浴室の前に置いておくから」

 メリーさんはスタスタと浴室の方へ歩いていった。しばらくして、シャワーの水音と鼻歌が聞こえてくる。俺はTシャツとスウェットを浴室の前に置いた。


 10分程して、浴室のドアが開く音がした。シャンプーの匂いをさせながら、メリーさんが出てきた。ん??出てきた??ん??


「お、お前誰だ?」

 そこに居たのは、さっきまでの美少女ではなく、俺と同じくらいの年齢の美女だった。


「私、メリーさん」

「は?メリーさんは中学生くらいの女の子だったぞ?」

「私、メリーさん。成長したの」

「え!?え!?」

「私、メリーさん。この服、胸のところが少し苦しいの」

「と、取り敢えず、落ち着いて!」

「私、メリーさん。落ち着くのは貴方だと思うの」


 俺は目のやりどころに困って、メリーさんから視線を外した。けしからんボディだ。


「あ!メリーさん、歯磨きしたか?お菓子食べたんだから、歯磨きしないとダメだぞ!」

「私、メリーさん。貴方と一緒に歯磨きするの」

「新しい歯ブラシ出すよ。じゃあ、一緒に歯を磨くか!」

 俺はなんとか場の空気を持たせようと、一緒に洗面所に向かった。メリーさんに歯ブラシを渡して、一緒に歯を磨く。鏡に映ったメリーさんを見て、作り物みたいに綺麗な顔をしてるな、と思った。あれ?そもそも作り物なのか?


 歯を磨き終わる頃には睡魔が襲ってきた。けど、成長したメリーさんと同衾どうきんする勇気は俺にはない。寝る場所を分けたいが、ベットの他に寝具が無かった。どうしよう…


「私、メリーさん。そろそろ寝たいの」

「う、うん。そうなんだけど、俺は眠たくないから、メリーさんがベットを使ってくれ。俺はソファで横になるよ」

「私、メリーさん。おやすみなさい」

 メリーさんは直ぐにベットに入って、スヤスヤと寝息を立てた。俺はなんだか緊張して、眠たいのに眠れないと言う状態になった。時計の針が3時を知らせていた。無理矢理に目を閉じて、俺の意識はそこで途絶えた。





 目を覚ますと、メリーさんは部屋から消えていた。昨日の事は夢だったんだろうか。時計を見ると9時。結構眠れたな。俺は昨日、風呂に入っていなかったので、手軽にシャワーを浴びる事にした。


 シャワーから出ると、携帯に着信履歴が残っていた。非通知。メリーさんからだろうか?昨日の事は夢ではなかったのか。暫く携帯を見つめていると、着信があった。


「もしもし?」

「もしもし、私、メリーさん。今、朝食の買い出しに来てるの。何が食べたい?」

 俺はなんだか安心してしまって、なんでも良いよ、一緒に食べようと答えた。


 数分後、メリーさんが帰ってきて、一緒に朝食を食べた。俺はなんだが嬉しくなって、メリーさんに言った。


「なあ、良かったらこれから一緒に暮らさないか?」

 メリーさんは、俺の突然の問いかけに笑顔で答えた。





「私、メリーさん。貴方の恋人になりたいわ」



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