【髑髏と薔薇】
俺が着るのは、いつも
朝起きると、着信履歴が100件を超えているのを見て、またかよ、と溜息を
「どうして、私と通話する前に寝ちゃうの?私の事、嫌いになったの?」
「薔薇ちゃん、俺はライブの日以外は22時超えると寝るんだよ。健康優良児なの!」
「髑髏くんは一生寝ないで、私と通話してて欲しい……」
「俺に死ねって言ってるのかよ!」
「髑髏くんが死んだら私も死ぬから!絶対死んじゃダメっ!」
わかったよ、と返事をして電話を切った。薔薇ちゃんは一体いつ寝てるんだろう?と
薔薇ちゃんは、俺のやってるバンドのファンの1人だった。俺は軽く化粧をするビジュアル系ロックバンドのベーシストで、作曲担当だ。なんとか音楽で食っていけてる現状に満足している。ある日、ホームにしているライブハウスでワンマンライブをした後に、物販でCDを売っていると、薔薇ちゃんがファンレターを持ってやってきた。
「あの!髑髏くん、これ読んでください!」
「うん、ありがとう」
第一印象はゴスロリ美少女。黒地の服に、真っ赤な薔薇が印象的だった。その時から、俺の中では「薔薇ちゃん」って
薔薇ちゃんが持ってきたファンレターは、雑誌くらいの厚みがあった。やべぇな、コイツ、と思いながら、俺は笑顔で受け取った。薔薇ちゃんは、目をうるうるさせて、言った。
「絶対読んでくださいね」
「勿論だよ!凄く嬉しいよ」
薔薇ちゃんは、小躍りしながらバーカウンターの方へ歩いて行った。
数通のファンレターに目を通して、最後に雑誌みたいな薔薇ちゃんからのファンレターを開けた。中からCDが出てきて、俺は驚いた。それは俺の大好きなパンクバンドの、廃盤になったCDだった。しかも初回限定、サイン付きのプレミア物。オークションに出せば、10万くらいはするだろう。俺は慌てて、携帯からSNSのアカウントを開いて、薔薇ちゃんにメールを送った。
「こんな高価な物受け取れないよ!まだライブハウスに居るの?」
直ぐに返信が来た。
「今、ライブハウスの外で出待ちしてます」
「ちょっと楽屋に来て!返すから!スタッフには話通しておく!」
「それ、実家で
「もう聞く事がないなら、オークションに出せば大金になるよ!とにかく返すから!」
「髑髏くんが、そのバンドのファンって知って嬉しかったんです。貰ってください」
ダメだ。頑固な女だな!と頭を抱えて、俺は楽屋を飛び出して、ライブハウスの外に出た。十数人のファンが一斉にこっちを見たが、俺は気にせず薔薇ちゃんの所まで、一直線に歩いて行った。
「ちょっと来て!」
薔薇ちゃんの腕を掴んで、グイッと引っ張った。薔薇ちゃんの腕は細くて、体重なんて概念はないんじゃないかって位に、簡単に引き寄せる事が出来た。
「ちょっと髑髏くん、その女、誰よ!」
ファンの1人が、嫉妬心メラメラって感じに言ってきた。
「生き別れの妹!」
俺は
楽屋に戻って、薔薇ちゃんにCDを返した。薔薇ちゃんは不服そうだったが、ファンとの距離感を間違えてはいけない。気まずい雰囲気になったので、こちらから声を掛けてみた。
「薔薇ちゃんもこのバンド好きなの?」
その一言で、薔薇ちゃんはパッと笑顔になり、自分の音楽
「でも、今一番好きなのは、髑髏くんのバンドです。本当に好きです」
急に告白みたいに声を震わせて、薔薇ちゃんは言った。ありがとう、と素っ気なく返事をしたけれど、俺は内心、とてつもなく嬉しくて、表情には出さずに、心の中でガッツポーズをした。
他のメンバーが楽屋に帰ってきて、その女誰?と興味津々に聞いてきた。俺は、生き別れの妹だよ、とメンバーに紹介した。メンバーは笑って、薔薇ちゃんに色々と話し掛けた。薔薇ちゃんは好きなバンドのメンバーに囲まれて、テンパったみたいだ。あわあわしながら、メンバーからの質問に答えていた。凄いコミュ障だな、と思いながら、俺は置いてあったベースを手に取って、弾き始めた。薔薇ちゃんは、俺のベースに合わせて、体を揺らしていた。
バンドのメンバーと仲良くなった薔薇ちゃんは、打ち上げに来るようになった。いつも見知らぬ人に囲まれて、緊張でぶるぶる体を震わせている薔薇ちゃんを見て、また実家のウサギを思い出した。そんなに緊張するなら来なきゃいいのに。薔薇ちゃんは酒が弱く、カシオレ1杯で酔った。薔薇ちゃんが酔うと、介抱するのはいつも俺の役目だった。バンドのメンバーからは、お前の妹なんだろ?と、からかわれた。薔薇ちゃんは、よく俺の手に触って、私、ベースになりたい、ずっと髑髏くんに触れて貰いたい、と言った。生まれ変わったら、薔薇ちゃんはウサギになると思うぞ、と言うと、薔薇ちゃんは泣いた。泣き上戸なの、本当に勘弁して欲しい。
薔薇ちゃんから送られてくるメールは、いつも長文で、ポエムみたいな内容だった。意味わかんねえ、と思いながら、俺はいつも短文で返した。途切れなく来るメールに困り果てた。10分位返信しないと、追撃のメールが来る。こんな面倒臭い女は初めてだ。けれど、いつもライブに来てくれて、小さい体を振って、一生懸命に応援してくれる薔薇ちゃんが可愛くて仕方なかった。本当に妹が居たら、こんな感じなんだろうな、と思って、薔薇ちゃんからのメールに付き合った。
メジャーデビューが決まった日、薔薇ちゃんは打ち上げで、わんわん泣いた。バンドのメンバーはそれを見て爆笑した。薔薇ちゃんがデビューする訳じゃないじゃん、と言って、俺は、薔薇ちゃんのマスカラが取れた目を、おしぼりで拭いた。薔薇ちゃんは、だって、だって、嬉しいんだもん!と言っては、また泣いた。帰り道、薔薇ちゃんを駅まで送っていると、薔薇ちゃんは真面目な顔になって俺に言った。
「もう、髑髏くんとは会いません。今までありがとうございました」
薔薇ちゃんは、メジャーデビューを控えた俺に、気を使ったようだった。
「なんでそんな事言うの?今まで通りに打ち上げに来てよ」
急に寂しくなって、俺は薔薇ちゃんに言った。
「これからも1ファンとして応援します。でも、メジャーデビューする髑髏くんの邪魔になりたくないです」
薔薇ちゃんは絞り出す様に、声を震わせた。
それから薔薇ちゃんは、俺達の前に一切姿を見せなくなった。メールも返って来ない。失って初めて気付く事があるとか、古臭いラブソングが歌われているけど、本当にその通りだな、と思った。とにかく薔薇ちゃんに会いたかった。けれどメジャーデビュー前の俺は、とても忙しくて、薔薇ちゃんを探す余裕がなかった。メジャーデビューは、ミニアルバムで決定した。既存の曲を2、3曲、後は新曲にする事になったので、俺は作曲活動に没頭した。けれど、薔薇ちゃんの事が頭に
「アルバムのタイトルどうするよ?」
ボーカルに聞かれて、俺は即答した。
「
えー、ダサくね?とメンバーは大反対だったが、俺は譲らなかった。このアルバムは、薔薇ちゃんが居なければ出来ていない。
発売されて、一週間でオリコンチャートに入った。色々な番組に呼ばれて、俺達の生活は変わった。とにかく忙しい。家に帰って、寝るだけの生活が続いた。会いてえよお、と
髑髏と薔薇が売れた後は、それほどヒット作は出なかった。だけど、食うには困らない。時間が出来たので、俺は薔薇ちゃんが住んでる駅で、薔薇ちゃんを探したけど、見つからなかった。もう会えないのかな、と思った。インディーズ時代にホームにしてたライブハウスに寄って、
薔薇ちゃんが居た。
「何してるの?」
少し意地悪っぽい声で、俺は薔薇ちゃんに聞いた。本当は今すぐに抱き締めたかったけれど、薔薇ちゃんは、俺の事なんて忘れてしまったのかも知れない。少し怖くなった。
薔薇ちゃんは、初めて会った時みたいに、目をうるうるさせて言った。
「髑髏くんの事、忘れよう、忘れようとしても忘れられないから、ライブハウスに来るんだよ」
薔薇ちゃんは泣き出した。
俺は、薔薇ちゃんにクレームを付ける事にした。
「薔薇ちゃんの
俺からのクレームに、薔薇ちゃんは笑顔になって
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