【101回目の異世界転生を】✩‪‪★


 初めて異世界転生をした時、つまりは、この女神に出会った時、僕は興奮して色々な事を聞いたし、色々な事をお願いした。最強の剣を用意して貰ったり、特殊な力を身に付けて貰ったりした。


 異世界転生というのは、今流行りのライトノベルのジャンルで、現実世界で事故などに遭って死んだ後、ファンタジー世界に転生して、その世界で大活躍する、と言った物だ。


 僕はゲームやライトノベルが大好きなオタクだったので、異世界転生された時、直ぐに自分の置かれた状況を把握して、目の前に現れた女神とスムーズに会話をした。


 女神は、現実世界で死んだ人の魂を、ファンタジー世界に転生させる役目があり、転生前に色々な説明をしてくれたり、特殊な道具や力を与えてくれたりするのだった。僕は女神の力を借りて、世界を救った。


「なあ、これで何回目だっけ?」

 僕は天国と呼ばれる見慣れた場所に立って、見慣れてしまった女神の顔を見ながら、溜息混じりに聞いた。


「えーっと……あ!記念すべき100回目ですよ!やりましたね!」

「おい、なにがやりましたね!だ!100回死んでるって事じゃないか!」

 100回。異世界転生も、100回目になれば、うんざりだ。最近、この女神は、僕を異世界転生をさせる為に事故死させたり、隕石まで降らしたりしてくる。人の命を何だと思ってるんだ。


「なんで、僕ばっかり転生させるんだよ!他にも転生してる奴いるだろ!現実世界に返せよ!」

 女神の長い髪をつかんで、僕は女神の頭を上下に揺らした。


「痛い痛い痛いです!止めてください!」

「止めてくださいはこっちだよ!止めてくれよぉぉ!期末試験期間中なんだよ!勉強中なんだ!異世界では時間がゆっくり流れるとは言え、1分1秒が生死を分けるんだよ!」

 泣きながら女神に訴える。試験結果によっては、月の小遣いが50%カットだ。来月発売予定の新作ゲームが買えなくなる。


「今回世界を救ってくれたら、報酬で貴方が欲しがってる新作ゲームを与えます」

「そうやって何回騙したんだ、くそ女神!現実世界に干渉できるのは転生関係だけだって知ってるんだからな!」

 今度は女神の頬を思いっきり引っぱたいた。現実世界に返して貰えるまで、今回は絶対に譲らない。


「なんで僕なんだよ!他の奴じゃ駄目なのか?またお前と冒険の旅に出ないといけないのかよおお!」

「心穏やかにまた冒険しましょうね」

「駄目だ……話が通じない……」

 僕は頭を抱えて、その場にうずくまった。


「今回救わなければならない世界は、銃弾飛び交う西部劇の様な世界!さあ心躍る冒険の旅へ!」

「銃弾飛び交うのかよ!死ぬよ!」

「いつもみたいな剣と魔法の世界にしますか?でも、貴方がかなりの数の世界を救ってくれたので、あまりストックが残ってないんですよね〜」

「剣と魔法でも死ぬ時は死ぬだろうが!」

「また最強のアイテムと最強の能力を身に付けて冒険すれば良いじゃないですか!」

「逆ギレかよ!ふざけんなよ、くそ女神!」

 僕は女神に向かってドロップキックをした。数メートル吹っ飛んだ女神は、直ぐに髪型を整えて立ち上がる。


「天国に来た時点で戻れないんですから、覚悟を決めて冒険しましょうよ」

「嫌だ!死ぬかも知れないリスクを取る位なら、何が何でも戻して貰う。女神はこの世界で万能の存在だと聞いてるぞ?本当に戻せないのか?嘘を吐いたらジャーマンスープレックスだぞ?」

「あの技だけは止めてください!首の骨が折れちゃいます!」

 昔食らった僕の必殺技を思い出した様だ。ブルブル震える女神の頭をつかんで、僕は女神を問い詰める。


「本当に本当に戻れないんだな?」

「ほ、本当に本当に戻れません」

 分かったよ、と僕は女神の頭を離して深呼吸をした。


「でもさ、なんでいつも僕なんだ?他の奴じゃ駄目なのか?」

「他の人はこの状況に順応出来なかったり、冒険に出ても直ぐに死んじゃうんですよ。貴方は自覚していないかも知れませんが、凄く優秀な転生者なんです」

「順応出来ない転生者はどうするんだ?無理矢理冒険に出すのか?」

「現実世界に戻しますよ?」

 当たり前じゃないですか、と言った顔をした女神に、ジャーマンスープレックスをぶちかました。


「く、首が……何をするんですか!」

「現実世界に戻せるんじゃないか!早く戻せよ!」

 しまった!と言う顔で、女神は作り笑いをしながら僕に言った。


「だ、誰でもって訳じゃないんです」

「嘘だ!早く戻せ!」

「嘘じゃないんですぅ〜!魂が不安定な人しか戻せないんですぅ〜!お願いします~!世界を救ってください〜!」

 女神は土下座しながら僕に懇願こんがんした。


「ちくしょう!戻れないなら仕方ない!3日で世界を救ってやる!」

「ありがとうございます!では今回のボーナスアイテムと能力は何にしますか?特典付けますよ!」

 立ち上がって、満面の笑みを浮かべながら女神は言った。


「今回の世界は銃がメインの世界なんだな?」

「そうです!そこで暗躍するマフィアのボスの討伐が今回のクリア条件です!」

「取り敢えず、絶対に当たる銃、当たったら即死、絶対に死なない体、それから……」

「流石に死なない体ってのは……」

「特典付けるって言ったよな?」

 真顔になって、脅すように低い声を出した僕に、女神はブンブンと首を縦に振った。





「……と、こんなもんかな」

 とにかく思いつく限りの最強アイテムと能力を女神に伝えて、僕はその場に座り込んだ。伝えるだけで1時間掛かったぞ、疲れたよ。


「やはり転生慣れしてると色々な事を思い付くんですね」

 感心しながら、女神は僕の頭の上に右手を乗せた。能力を付与する為の儀式だ。青い光が僕を包んで、体が温かくなる。初めてこの儀式を受けた時は感動で身震いしたが、100回目ともなると何の感情も湧いてこない。


「なあ、女神ってのは普段何してるんだ?」

 儀式は数時間掛かるので、退屈しのぎに会話でもしようと、僕は女神に問い掛けた。


「そうですね……色々な世界を天国から覗いたり、たまに来る転生者の相手をしたりしてますね」

「友達とか居ないのか?」


 何気なく聞いた問い掛けに、女神は悲しそうな表情で答えた。


「居ません」

 聞いてはいけない事だったのかな、と反省しながら話題を変えようとして僕は続けた。


「じゃあさ、親とか恋人とかは?」

「親はいません。恋人が出来た事はありません」

 八方塞がりだ。


「じゃあさ、どんな人がタイプとかあるか?僕は友人が多い方だから、今度紹介してやるよ」

 きょとんとした顔をして、女神は言った。


「どうやって出会うんですか?その人を事故死させて転生者として呼ぶんですか?」

「……僕が悪かった」

 女神というのは大変な仕事なんだな。友人も恋人も作れなくて、永遠とも言える孤独に耐えなければいけないのか。少し同情する。


 二人して黙ってしまって、気まずい空気になった。女神は黙々と僕に能力を授けていく。全ての能力を身に付けて貰った僕は、異世界転生の準備に取り掛かった。


「今回も付いてくるんだろ?」

「勿論ですよ。貴方がピンチの時は助けますから安心して下さい」


 女神が指をパチンと鳴らすと、大きな姿見が突然現れる。鏡に映っているのは異世界への入口。ぐにゃぐにゃと、絵の具を掻き混ぜたような映像が映っている。


「んじゃ、行くか!」

「行きましょう!」


 二人して鏡に飛び込んだ。視界が歪む。そして僕達は異世界へと転生した。あれ?





「おい、どうなってるんだよ?」

「私にも分かりません」





 異世界に転生した筈が、僕達は現実世界に居た。ここは僕の部屋だ。付けっ放しのテレビには、僕が今熱中してるゲームの画像が流れていた。


「あ!試験勉強してるとか嘘を吐きましたね!」

「え、いや、それは息抜きだよ」

 慌てて言い訳をした。女神はじとーっとした目で僕を見てくる。


「それよりさ!現実世界へ転生ってどういう事だ?」

 誤魔化す為に話題を変えた。


「私にも分かりません。上司に聞いてみます」

 女神は、内ポケットから携帯電話のような物を出して、素早くボタンを押した。そこから、テレビサイズの光が、僕の部屋の壁に映し出されて、白髪の偉そうな男性が画面に飛び込んで来た。


「女神か。何の用だ」

「あの~、すいません課長。異世界転生しようとしたら、転生者の居る世界に転生されてしまったのですが」

「ああ、それな。ボーナスだ」

「ボーナス……ですか?」

 女神は上司の言葉の意味が分からず、オウム返しをした。


「お前、今回で500回世界を救った事になるから、前に社長に提出してた、お前の『叶えて欲しい望みリスト』から、社長が一つ選んでボーナスとして与えられたんだよ」

 上司からの言葉に女神は動揺しているようだった。僕は上司に尋ねた。


「このくそ女神の望みってのは何なんですか?」

「おお、転生者か。君のおかげで我社の成績は前年度200パーセントアップだよ。感謝している」

「そいつはどうも」

「女神の望みは『好きな男と添い遂げたい』だ」

 上司から放たれた言葉に、女神はギャーっと叫んだ。


「そいつな、お前との冒険の旅が楽しくて、寂しくなるとお前を転生させて一緒に冒険するんだよ。可愛い奴だろ?幸せにしてやってくれ」

 上司は笑いながら電話を切った。


「うぅ……」

 真っ赤になった女神は黙り込んでしまった。


「なんだよ、お前、僕の事が好きだったのかよ」

「そうですよ!そうですよ!悪いですか!」

「いや、悪くはないけどさ。女神と人間って付き合える物なの?」

 素朴な疑問を女神にぶつけた。


「つ、付き合えますよ!」

「そうなのか」

 僕は、付けっぱなしのゲームの電源を落としながら女神に聞いた。


「付き合ってもいいけどさ、女神とのデートって何したらいいのか分かんねーよ」

 僕からの疑問に、女神はパッと笑顔になって答えた。


「では101回目の異世界転生を!」

 僕は女神にジャーマンスープレックスをぶちかました。




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