第28話



『誉田の神をかたる不届き者は誰ぞ!!!』


 夏の雷鳴のような激しいガラガラ声と突然の大音量が、ほぼ無人の電車内に響き渡った。


 誉田のやさ老人を思い浮かべていた三人は、あまりのギャップにドン引きし、動じないマルですらスマホを落としそうになった。


 次の瞬間、牙をむき出しにした赤鬼の怒りの形相が、画面いっぱいに映し出された。


「うお!!」


「きゃあ!!」


 悲鳴をあげて瀧の腕にしがみつこうとした小夜だったが、瀧が一目散に逃げ出したので、その手は空振った。


「え……この声どこかで聞いたことあるような」マルだけが臆することなく画面を見つめ、首をかしげていた。


『お前たちの不徳な行いが神の怒りを買ったのだ。このまま都会に返してなるものか!』


 鬼は画面の奥から光る目で三人を睨みつけた。


『その先の川にかかる鉄橋から、誉田の山々を見るがいい……森は怒りに赤く染まっているぞ。神の祟りを知るがいい!』


「川? それに怒りって、何だ?」


 瀧があわてて車窓に張り付き、進行方向に目を凝らした。


 電車は短い車体を揺らしながら、少年・少女たちを線路の先へといざなっていく。ゆるいカーブが終わる頃、緊張する小夜たちの目に、鉄の十字を編む赤い柱の郡がはっきりと見えてきた。川に近づくにつれ、電車のスピードはだんだんと落ちていた。


「鉄橋……はすぐだ。山の見える方は? あっ! しまった、こっちじゃない。あっち側だ!」


 三人の動きがシンクロした。車両の反対側の席まで走り、二人分しかない窓際の席と席の間に全員で入り込んだ。お互い押し合いながら、手のひらや額を窓ガラスに隙間なく押し付け、外を懸命に探した。探すはひとつ――神の怒りとやら。


「あそこ!」


 皆の中でいちばん視力の良い小夜が、興奮ぎみに言った。指し示した指の角度は、瀧が目を皿にしてなぞっていた山肌の方と比べたら、だいぶ斜め下の方だった。


「どこだ小夜! 見えないぞ」


「僕は眼鏡かけないと厳しいや……よし、これでいい。本当にこっち側であってるよね? 森は何かおかしい? いや、何も変わってない。普段どおり。それともこの橋じゃなかったのかな?」


「ううん、ここだよ。ここであってたよ」


 震える声に気づいた二人が、はっとして小夜の方を見た。少女は両手で口をおさえ一点を凝視していた。

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