第10話



 粗大ごみを廃棄場所に残して、三人はさらに先へと進んだ。やがて彼らの道は、小さな川に突き当たった。


 これが話に聞いていた『森っ子のみず』の流れに違いない。老人たちの言葉によれば、この流れをかみへとたどれば神社につくはずだ。


 思わず小夜が「こんなに小さな流れだった?」と漏らしたように、川は狭くて浅かった。小学校の低学年の頃に感じた印象が強かったせいかもしれない。そう話し合った。


 短足だとからかわれていたマルですら、川底の岩を踏んで容易に対岸へ渡ることが出来た。いくらあのおじいさんの腰が曲がっていても、ここで溺れるとは思えなかった。


 川岸にはびっしりとススキが生えていた。三人は抜いた草を束ねて振り回しながら、上流へと進んでいった。


 流れがどんどんと細くなり、やがて小夜ですら、ひとまたぎで超えられる程の幅になった時、眼の前に神社の鳥居が現れた。


 シンプルな神明式で、薄く褪せた朱色が年期を感じさせる。正面に格式高い神額などは飾られていなかった。柱に何かが彫ってあったようだが、縁が欠けて全く読めなかった。


 鳥居をくぐった先に、平らな石を横二列に敷いた路が数メートルあり、一番奥に御神体を収めたやしろが建てられていた。


 手入れは最低限されているようで、垂れ下がる紙垂しではそこそこ白い。


「ここは誉田の森の終着点」


 社をのぞき込む瀧は、旅番組のレポーターのような感想を述べた。


「ここいらじゃ、この神様が一番偉いんだろうな」


 両開きの木製の扉がわずかに開いていた。けれど内側は暗く、祀られている何かの姿は見えなかった。


「本当にコウモリなんているのかな。声もしないけど」


 覆いかぶさる木の枝から漏れてくる陽の光に、マルが目を細めた。


「マル、まさか『森っ子』の事を言ってるの? フクロウでしょ! どういう耳してるのよ。たとえコウモリだとしても夜行性だし」


「なんだ。鳴き声を聞けるかと思ったのに」


「神様の使いだって言ってたよね。どんな声なのかな?」


「ハハ! ふたりともリアルにお馬鹿だな。鳥が喋るわけ無いだろ?」


「瀧もおかしい。コウモリは鳥じゃないよ」


「フクロウは頭がいいって聞いたことがあるわ。もしかしたら人の言葉とか、真似できるかもしれないよ」


そういう・・・・事を言ってるんじゃないんだって」瀧が鳥居を背に、気取った素振りで指を左右に振った。


「誉田の神様に話を聞いてもらってるから、村の人たちは安心して暮らしてきたって言ってたろ。でもさ、聞かせっぱなしで何も起こらなかったら、人間は神様なんて信じていけるか?」


「うーん、微妙かも」


 瀧がぱしんと両手を打った。「そこで『森っ子』の出番だ! あの鳥が出てくる時に奇跡が起きてるって言うじゃんか。要するにさ、フクロウの存在自体が信者に送る返事メッセージみたいなものなんだ。森が無くなったとするだろ? この先、神様に声を聞いてもらうにはどうすればいい?」


「えーっと、神社を移せばいいわ」


「はい正解! 社があれば祈る事ができて、話も聞いてもらえる。でも神の声はどうする? 木に足が生えてわさわさと移動してこなきゃ、声を伝える役目の鳥さんは、森と一緒に消えちまう。フクロウがいなきゃ奇跡は伝えられない。そこが問題ってわけさ!」


「すごいや。今日の瀧は別人みたいだ」


 滅多に友人を褒めないマルが、感心して拍手までしていた。


「いつからそんな賢くなったの?」小夜はまだ半信半疑だった。「それとも熱でもあるとか。とにかく瀧っぽくないわ」


 小夜の痛烈な皮肉もどこ吹く風。瀧は自分の舞台の最後を華麗に締めくくろうとしていた。


「それでだ! 偶然にも俺たちは『電子工作同好会』っていう素晴らしい・・・・・会のメンバーだろ。だから――作ってあげればいい!」


「「何を?」」。

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