第6話



 その日の晩、瀧は遅くまで起きていた。硬い布団の上で何度も寝返りを打ち、そのたびに眠れない理由を自分に問いかけてみた。答えは毎度同じだというのに。


 不意に瀧は答え合わせがしたくなった。


「なあ、マル」返事はなかった。もういちど聞き直す。


「起きてる気がしたから聞いたんだけど……」


「一応、起きてる」


「昼間のじいさんたちの話、聞いてたか?」


「一応、聞こえてた」


「じゃあ、その後の小夜の顔は?」


「……見たよ」


「やばいよな、あれ」


「うん、やばい」


「……」


「……」


 二人とも喋ることを止め、掛け布団を目深にかぶった。


 瀧がぎゅっと目を閉じてしばらくすると、ようやく瞼の奥にうとうとがやって来た。それから闇の中に落ちるまで、瀧の意識の裏側で低い声の鳥がずっと鳴いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る