第5話
「森っ子って何?」暗い話にげんなりしていた瀧が、奇妙な言葉に反応して口を挟んだ。
「瀧!」口の悪さに眉を潜めた小夜が、たしなめる。
「森っ子はフクロウさ。神様がつかわされた特別な鳥。誉田の森を守ってる。森だけじゃね、ワシらもさ」
「フクロウ……」現実感のない話に、小夜はキョトンとした。
キヌはそんな小夜の反応を気にもしていない。「オレがあんたよりもっと小さな
キヌが皺だらけの手でこんもりとした塊を作った。「木の枝に止まってな。泣いてるオレを見てホーホー鳴いてた。そうしたら不思議な事に、山犬の鳴き声がピタリと止んじまった! オレはその間に走って逃げ帰ったさ」
「ワシも助けてもらったべ」治兵衛も口を開いた。「川が増水していて、帰れなくなった時だ。森っ子が飛んできて、川の石っころの上に点々と止まった。そこだけ妙に流れが弱くってな。森っ子はワシが渡れるよう、安全な道を教えてくれたんだ!」
口々によみがえる森っ子の伝え話に、小夜は口を挟めず困惑していた。
最後に余一が老人たちの昔話に幕を引いた。「私たちは嬉しい時も困った時も、森の神社に出かけては神様に話を聞いてもらった。森の声を聞いて育ってきたんだよ」
「森の声……」
「けれど最近は木々が極端に減ってしまい、森っ子たちが滅多に姿を見せなくなってしまった。それでみな心配しているんだ。こんな気持ち、誉田を離れてしまったお嬢ちゃんに言っても伝わらないよな」
寂しい言い方だった。小夜は悪い行いを責め立てられた時と同じく、背中にむず痒さを覚えた。
「ほらほら、おじいちゃんたち。子供をあまり大人の問題で悩ませないで。みんな疲れているんだから」
戻ってきた叔母が会話を無理矢理終わらせた。「相変わらず何もない所だけど、小夜ちゃんもお友達もゆっくりしていってね」
その言葉を最後に、宴は自然解散となった。
小夜はのろのろとソファに戻って、腰を下ろした。膝を抱え、畳のへりの一点をみつめたままぴくりとも動かない。
隣にいた瀧はちらちら小夜の顔を見て、落ち着かない様子で咳払いをした。やがて居心地が悪くなり、ソファと反対側にいたマルの所に席を移した。
瀧が小夜のことを話したくて声をかけても、マルはもぞもぞと荷物を漁るのに忙しくて返事をしなかった。
「おい、マル。そのカバン、何が入ってるんだよ」瀧がいらいらと言って、背後からマルの手元を覗き込む。
「おいおい、誉田まで来てハンダゴテかよ! お前の好きな菓子ばかり詰まった袋に、それは暇つぶし用の本か? タイトルは……『応用電子回路』?! ったく、この電気オタク!」
「電気があれば、何でもできる」
瀧は天井を見上げてうめいた。
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