5
十二月二十四日、クリスマス・イヴ。
また、夢を見た。
僕はどこかの路地裏で桐嶋さんと向き合っていた。
路地を抜けた先には見慣れた商店街の通りが見える。通りは路地裏よりも明るく輝いていた。
ふと、桐嶋さんの呼吸が荒くなって、手で自分の胸の辺りの服を掴みながら苦しみ始めた。足下がふらついてきて、その場で膝をつき、四んばいになった。
次の瞬間、僕も前のめりになって倒れた。
僕の額からはものすごい量の汗をかいていた。
僕は体を横にして桐嶋さんの方を見た。桐嶋さんもいつの間にか体を横倒しにして僕の方に体を向けていた。血を吐いていて、口の周りが赤くなっていた。僕の口元も同じ状態になっていた。
二人ともどんどん息が荒くなっていき、体を丸めて苦しんでいた。
やがて、動かなくなった。呼吸が止まり、体が冷たくなっていく。
僕は目が覚めるまで、二つの死体を見下ろしていた。
十二月二十五日、午後四時。僕は駅前の商店街の入口にいた。
商店街の入口には巨大なクリスマスツリーが置いてあり、電飾や人形、綿などが飾り付けられていて、仕上げに金色の星が木のてっぺんに刺さっている。
昨日、夢を見た後どうしたらいいか迷った。
今日このまま予定通りいくと二人とも死んでしまう事になる。それはもう確定だ。
だからといって、それを未然に防ぐ事は出来ない。倒れる前、夢の中ではただ二人で向き合っていただけで特に何かをしたというような様子はなかった。これではどうにもならない。
それならなぜ、今日この場に来たのか。来なければもしかしたら助かったかもしれない。
理由は簡単だ。知りたかった。なんで自分が夢の中であんな不可解な死に方をしたのか。ただそれだけが知りたかったのだ。
桐嶋さんが向こうから歩いてくるのが見えた。向こうも僕がいることに気付いたらしく、小走りになって来た。
「ごめん、遅れた」
と、言いながら両手を顔の前で合わせた。
「待ちくたびれたよ」
「たった五分でそこまで言わなくてもよくない?」
「遅刻してきた人が言えるセリフじゃないでしょ」
と、笑いながら言い合った。
商店街に入ってみると八百屋や肉屋、魚屋のほか、CDショップやゲームセンターなどが並んでいた。それらの店がすべてクリスマスに合わせた飾り付けをしている。
僕たちはしばらく買い物をしたり、ゲームセンターで遊んだりしていた。
七時頃になると商店街を出て、近くにあるファミレスで食事をした。
食事を終えると、僕は用意していたプレゼントを桐嶋さんに手渡した。
「わぁ、ありがとう」
と、言って彼女は受け取った。開けていいかと聞かれたので、どうぞと返す。
「『ゼノン』のCDだぁ。ありがとう」
と、とても嬉しそうに言ってくれる。
最近彼女はこのロックバンドにはまっているらしく、ライブにもよく行くらしい。インディーズなので探すのに苦労した。
「でもかぶっちゃったなぁ。私もCDなんだ」
彼女はバッグから、赤と緑のストライプ柄の紙で包装された物を取り出した。
中身は僕の大好きなコブクロの最新アルバム。ありがとうと言って、感謝した。
会計を済ませ、僕たちは外へ出た。
ファミレスを出た後、桐嶋さんが話があると言って商店街の店と店の間にある路地に連れていかれた。人目が気になるらしい。
路地に入ったとき、僕は嫌な予感がした。
僕は今、桐嶋さんと向き合って立っている。昨晩見た夢と同じ光景だ。
桐嶋さんが口を開いた。
「私…金井くんのことが好き」
僕は驚いて目を丸くした。
「僕も…桐嶋さんのこと好きだよ」
そう言うと彼女は頬を赤くしながら微笑んだ。
僕も恥ずかしくて、顔を少しうつ向けてしまった。
しばらくそのまま黙っていると、彼女が「目、つぶって」と言ってきた。
その言葉に一度顔を上げ、そのあと言われた通りにした。
ふと、唇に何かが当たった。人の肌の感触だ。
驚いて、目を開けてしまった。彼女は右手の人指し指を僕の唇に当てていた。
彼女は指を離し、こちらをじっと見ていた。
僕は軽く唇を舐めた。彼女はそれを見て、少し顔を暗くした気がした。
またしばらく黙っていると、自分がだんだん息を荒くしていることに気付いた。
胸が痛くなってその場に倒れこみ、血を吐いた。
苦しんでいる僕を彼女は無表情で見下ろしている。
だんだん気が遠くなっていって、体中の感覚がなくなり、僕は呼吸を止めた。
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