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十二月になって、伊沢くんの葬儀が行われた。
以前と同様にクラス全員でその葬儀に参加した。クラスメイトは葬儀自体は慣れてしまったらしく、自分のやるべきことをてきぱきとこなしていく。
そしてやはり、泣いているのは家族と桐嶋さんを含む仲の良かった友達だけ。その他の人達は平然としている。人の死に慣れてしまうというのは恐ろしい。
僕は泣かなかった。あの日の夜、ずっと自分の部屋で泣いていたから抑えることができた。
「金井、ちょっといいか」
クラスメイトの吉永くんが声を掛けてきた。彼とはそれほど話すわけでもないが、何の気兼もなく接することができるぐらいの関係ではあった。
「あいつ何かあったのか?」
「いきなりなにさ」
「だってあいつ覚醒剤やってたって聞いたぜ」
「そうみたいだね。でも何でまたそんな物に…」
「何も分からないのか?あんなに仲良かったのに。様子がおかしかったとかさ」
それを聞いたときカラオケでのことをおもいだした。
「そういえば…」
「そういえば?」
「この前一緒にカラオケ行ったときに、自分はもう死んでも構わないみたいなこと言ってた」
「それで?」と吉永くんが促した。
「確かその後、桐嶋さんが入ってきてそのまま話しにくくなっちゃって…」
「他には?」
「帰り際、俺はもう戻れないところまで来てしまったって言ってた」
今でもこの意味が分からない。一体、なぜこんなことを言ったのだろう。
うーんと吉永くんは少しの間考えていた。
「それだけ?」
「うん、それだけ」
本当に僕の知ってることはそれだけだった。
意味が分かんねぇと呟きながら、彼は僕のいる方向とは違う方向を見ながら言った。
「桐嶋は、あいつは何も知らないのか?」
彼の見ている方を見ると、友達の横で涙を流しながらぼうっと遠くを見ている桐嶋さんがいた。
「今は聞けそうにないね」と言う前に彼は彼女に向かって歩き始めていた。
「伊沢が死んだ理由について何か知らない?」
唐突に、何の躊躇もなく聞いた。
桐嶋さんは泣くことも忘れ、呆気にとられた表情で
「えっ……何?」
とだけ言った。
「だから、伊沢が覚醒剤なんてやった理由だよ」
それでもまだ彼女は目を点にしていた。
しつこく聞いてくる吉永くんに対して周りにいた女子の一人が言った。
「ちょっと、やめなさいよ。クミちゃん困ってるじゃない」
「福田は黙ってろよ。関係ないだろ」
その言葉に福田さんが眉間にしわを寄せた。
「デリカシーのない人ね!聞かれる方の身にもなってみなさいよ!迷惑よ!」
「何だよ、いいじゃないかちょっとくらい!友達として知りたいことだってあるだろ!」
「それが迷惑だって言うのよっ!」
「まぁまぁまぁ落ち着いて…」
「時と場所と状況を考えて…」
ヒートアップした二人を僕と、心を取り戻した桐嶋さんで押さえた。それ以降、吉永くんは一切喋らなかった。
一通り葬儀は終わり、生徒はその場で解散になった。
僕は伊沢くんの両親に挨拶をして、帰ろうとした。そのとき、桐嶋さんが声を掛けてきた。
「ちょっと付き合ってくれない?」
僕と桐嶋さんは街の中を適当にぶらついていた。
いや、適当というより伊沢くんとの思い出巡りと言ったところか。とにかく今まで伊沢くんと一緒に来た所などを回って、色々な思い出話をして歩いた。
そしてこの前来たカラオケ店の前にまた来ていた。
ふと桐嶋さんが少し沈んだ声で話し始めた。
「さっきの話だけどね、私、実は心当たりがあるの」
いきなりでわけがわからず、僕は吉永くんが言っていたことかと聞くと、彼女は静かに頷いた。
「この前、このカラオケボックスの前で待ち合わせたわよね?そのとき金井くんが来るまで二人で話してたの。けど、なんとなくだけど伊沢くんの様子がおかしいなって思ったのよ。それでさりげなく、『どうしたの?』って聞いてみたら……」
そこまで言って、彼女は押し黙った。それが返って気になってしまい、「それで?」と話を促した。
「付き合ってたんだって、沢田さんと」
驚いた。沢田さんは伊沢くんの後ろの席に座っていたが、普段それほど仲良く見えなかった。ましてや話をしているところなんてほとんど見たことがなかった。
「確か沢田さんってそのときは…」
「えぇ、もう事故に遭って死んでたわ…。だからショックであんなこと……」
これでなぜ彼があんなことをしたのか理解できた。彼は、彼女を追い掛けて行ったのだ。
僕は桐嶋さんの方を向き、
「そうなんだ…。理由がわかってよかったよ」
と言った。彼女もこちら向いて、
「言えてよかった…。一人で抱えるには重すぎて…」
と、泣きながら言った。
「ねぇ、今度の二十五日あいてる?」
泣きやんだ桐嶋さんがそう聞いてきた。
「なんで?」と聞き返すと、
「去年、三人でクリスマス遊び歩いたじゃない。あのときみたいにまた会えないかなって」
「あー、別にいいけど二人で遊び歩くの?なんか寂しくない?」
と聞いてみた後、しまったと思った。しかし彼女は気にした様子はなさそうだった。
「いいじゃない、たまには二人っきりで楽しもうよ」
そう言って彼女は歯を見せてにんまりと笑った。
そんな彼女の表情を見て、僕は遊ばれているんじゃないかというような気がした。
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