あなたのハート -砂-
「悲しい恋を乗り切るために必要なもの。それは――?」
☆
8月9日の木曜日。
4日前から行方不明になっていた女児が
自宅から600メートル離れた空き倉庫で遺体となって発見された。
女児の名前は「七森友香」。当時9歳で、小学三年生だった。
快活で友達が多く、学校ではマーチングバンド部に所属。担当の楽器はコルネット。
行方不明となった当日は夏休みということもあり、友人らと子供同士で遊んでいた。
正午に近所のモールで待ち合わせをし、モール内のファーストフードで食事。
同じモール内の雑貨店にてペンケースを購入していることが確認されてる。
以後、アミューズメントエリアと本屋で時間を過ごし、午後3時半頃に近所の公園へ。
その後、午後4時半に友人らと別れ帰途についたところまでは判明している。
発見された遺体はすでに腐敗が始まっていたが、解剖の結果他殺されたものと断定。
死因は首を絞められたことによる窒息。その他擦過傷が複数。
着衣に乱れはあったが性的暴行の痕跡は認められず。
左手薬指の第二関節から先が欠損。失われていた指は発見されていない。
犯人は未だ不明。公園から自宅までの道は交通量も少なく有効な目撃証言もない。
殺害現場とは逆に連れ去られたと推測される範囲で抵抗の痕跡が見られないことから
犯人は被害者の顔見知りか、警戒させないような相手ではなかったかと思われる。
殺害は突発的なものだと推測されるが、指が欠損し失われた理由は不明。
☆
9月2日の火曜日。
当日未明。河川敷にて当時16歳の女子高生が遺体で発見された。
被害者の名前は「向井律子」。
被害者は前日の放課後から消息不明で、家族から捜索願いが出されていた。
素行は至って真面目で、これまでに連絡なく帰るのが遅くなったことはないという。
学内でも評判は変わらず、生徒教師共に真面目な子だと評していた。
電車通学である為、最寄の駅まではカメラの映像で追跡できているがそれ以降は不明。
遺体となって発見された河川敷は自宅とは逆方向で、どうしてそちらへ向かったのか。
死亡推定時刻は消息を絶った日の午後6時で、駅で姿が確認されてから1時間後である。
死因は頭部を石で殴られたことによる重度の脳挫傷及び脳内出血。
加えて死亡の前後に首を紐状のもので絞められた痕跡あり。
頭部を殴った石は血が付着したものが発見されたが、紐状のものは見つかっていない。
その他、着衣に乱れなどはなかったが、左手薬指の第二関節から先が欠損している。
傷口から人間が噛み切ったものと推測されるが、理由は不明。
唾液からDNA鑑定を行ったが、前歴者の中に該当する者はなく犯人の特定には至ってない。
☆
11月18日の水曜日。
繁華街の外れにある雑居ビルの3階のカラオケ店にて男女2名が殺害された。
被害者は当時21歳で大学生だった「飯島誠人」と、
その交際相手である当時17歳で高校生だった「高見由依子」。
カラオケ店の室内にいたところを何者かに両者とも刃物で滅多刺しにされている。
死因は両者とも失血死。抵抗の痕跡から男性が先に刺されたものとみられる。
その他、同カラオケ店内で被害を受けた者はなく、怨恨からの犯行だとみられる。
犯人がどう侵入しどう逃亡したかは不明。
当時、同カラオケ店では店外への買い出し等を暗に認めており、
客の出入りに注意を払っていなかった。また監視カメラもダミーしか設置していなかった。
なので犯人は誰にも不審がられずに出入りができたものと思われる。
カラオケ店を出た後の犯人の消息も不明なままで、凶器からの捜査及び、
被害者の交友関係からの捜査においても、犯人の特定まで至らなかった。
ひとつ不可解な点として、女性被害者の左手薬指の第二関節から先が欠損している。
これは犯行に使われた刃物で切断されたのではなく、人の歯で食いちぎられていた。
DNA鑑定の結果、前年の女子高生殺害事件の容疑者のものと一致。
またどちらの被害者とも同市に在住し、同高校の在校生であった。
これにより同一犯による犯行であるという認識を得る。
☆
2月15日の月曜日。
同日未明。コンビニ傍の路上で被害者が血を流して倒れているのが発見される。
被害者は前年以前と同じ高校に在学する当時17歳の「大和田早希」。
深夜。近くのコンビニで買い物をしていた姿が確認されており、その後襲われたと思われる。
死因は紐状のもので首を絞められたことによる窒息死。
また、後頭部に棒状のもので殴られた痕があり、昏倒した後に殺害されたとみられる。
左手薬指の第二関節から先が欠損しており、DNA判定から同一人物の犯行と断定。
被害者と同じ高校に生徒として在学しているか、教員等関係者である見込みが高い為、
学校に協力を要請し入念かつ大規模な捜査を実施。
同時にこれまでの被害者が住んでいる地域でも同様に大規模な捜査を実施した。
だが、これといって犯人につながる手がかりは得られず。
また犯人が使用したであろう凶器や道具の線からの捜査でも有効な手がかりは得られなかった。
この頃、3年続けて同学校の生徒が殺害されているということが世間の話題となる。
警察は学校と協議の末、同年6月にこれまでの経緯を明らかにし公開捜査を決定した。
☆
「やはり、犯人は変質者なんですかね?」
警察署の2階。端の端にある小さな喫煙スペースに二人の刑事がいた。
一人はもう高齢の。もう一人は比較して若いというものの中年以上に見える。
「それはそうだろうが、それじゃあ見当がつかん……」
「人間関係では、ない?」
それだったらとっくに捕まえられてると高齢の刑事が白煙を吐いた。
「恨み。思い込み。もしくは相手を選ぶなにか犯人独自の基準がある。
それは間違いないが……、どこか表に出るという類のもんじゃないんだろう」
比較して若い方の刑事はそれを聞いて、溜息と煙を一緒に吐いた。
「だったら、学校関係者、卒業生もみんなDNA鑑定しますか?」
言いながら顔を歪める。そんなことが実際にできれば苦労はない。
「ただ……、犯人は女じゃないかと思っとる」
若い方の刑事は眉根を寄せる。そんな見解はまだどこでも聞いたことがない。
「刑事の勘だとか、年の功だとかそんな立派なもんじゃないし、
むしろ大外れなのかもしらんが。……そのなぁ、食いつかれた指に」
被害者達の噛み千切られた指の切断面から糖が見つかっていると老刑事は言った。
「それじゃあ、砂糖を振ってから食べたって言うんですか? 犯人は?」
老刑事は肩を竦めた。
「わからんが、女は甘いものが好きだって言うだろ?」
若い刑事は目を見開き、大きく息を吐いた。
そんなこと果たしてあるのだろうか? しかし実際なんのために……?
☆
「悲しい恋を乗り切るために必要なもの。それは――」
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