「灰色」

「は~い、クマさんですよ~♪」


今、私の目の前で馬鹿が捥いだばかりの熊の頭を振っている。

真っ赤な点が右往左往。ざらついた灰色の上に線を引く。


「ご機嫌ななめなの、かなっ?」


私はこの女が嫌いだった。

出会った時は恐怖の対象でしかなかったけど、今は嫌い。大嫌い。

私の両親を泣きじゃくる私の目の前で殺したこの女が嫌い。

レタスを千切るみたいに、なんということのないようにこの女は両親を殺した。


「じゃ、じゃあ、お料理するねっ!」


以来、私はこいつを殺す為にこいつと一緒にいる。

この灰だけが振り続ける世界で、もう人間の生存を許さない世界で、6年も。

未だに私はこいつを殺す手段も方法も手に入れてはいない。

あの時と変わらないままの痩せた姿。

まるで時が進んでいないように思える変わらない世界で私は殺意だけを高めている。


そうしてこなければ生きてこれなかった。非力な私はこいつと一緒でなければ生きられなかった。


殺したい。後はどうなってもいいから殺したい。殺せばどうせ私も死ぬのだからただ殺したい。


私は、こいつのことを考えなくては生きていけない世界から脱出したい。


 ■


「は~い、クマさんですよ~♪」


今、仕留めたばかりの熊の頭を振って精一杯の愛嬌を見せてみる。

子供はクマさんが好きなんでしょ? なのに彼女は顔を上げてくれさえしない。


「ご機嫌ななめなの、かなっ?」


私はこの子が嫌いなのであった。

見つけたばかりの頃よりかは心が通じてると思うけど、でも嫌い。嘘、好き。

出会いはそれはもう胸を裂くような衝撃的なものだったのだけど。

彼女のお父さんとお母さんが私に撃ち込んだ合わせて67発の弾丸はまだ身体の中にある。


「じゃ、じゃあ、お料理するねつ!」


以来、私は私が生き続ける為にこの子と一緒にいる。

このもう終わってしまった世界で、最後のひとりともうひとりとして、6年も。

未だに私は私自身を殺せずなにも諦められないでいる。

あの時から変わらないもう人ではない姿。

まったくの不変で、神様にも見捨てられた世界で私は彼女の殺意に期待し続けている。


でなければとっくに壊れた獣の仲間入りをしてただろう。彼女と一緒でなければもう私ではなかった。


殺されたい。私が死ねば彼女もほどなく死ぬだろうから、それでやっと終われるだろう。


私は、臆病な私から解き放つためにも、早くこの子に殺されて終わりたい。

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