発見
ピリピリリ
トランシーバーが鳴った。
『はい、浅葱ですどうぞ』
『相楽です。今、大丈夫?』
『大丈夫ですが……、なんでしょう?』
こんな真夜中に何かあったのだろうか。
まあ、僕は暇だから本を読んでたのでいつでも馳せ参じられる状態ではあるんだけど。
『見つけたの! 早く来て!』
『えっと、何がでしょう?』
『茜音! 見つけて屋敷の前まで連れてきたの! だから、来てもらえる?』
『わかりました、すぐ行きます』
弥月先輩にも伝えなきゃ。そう思った途端。
『あ、あと、時井先輩には内緒でお願い』
『え、あ、はい』
それだけ言うと、プツッと切れた。
すぐに支度をして、弥月先輩の家の外へ。もうヴァンパイアボディにも慣れたものだ。これくらいの塀なら飛び越えられないことはない。それに夜は体が軽い気がするし。
「お待たせ、それで、そっちが?」
「うん。私の親友。
そこには、相楽さんに腕を掴まれたゾンビがいた。彼女が、茜音さんか。いや、神戸さんと呼ばせてもらおう。
ゾンビになっていても美人というのがわかる。相楽さんの様に大人っぽい感じでもなければ、弥月先輩のように幼い感じでもない。年相応で、みずみずしさがよくわかる。少しだけつり上がった眼は狐のようで、気が強いのかな、なんてことを思わせた。
……それにしても、
「でも、相楽さんもヴァンパイアになってるんですよね? なら、相楽さんが神戸さんを治せばよかったのでは?」
「私もできればそうして欲しかったんだけどさ」
しょぼんとしたような顔で相楽さんは言う。
「どういうわけか知らないけど、私牙が小さいみたいなの。ほら」
そう言って、相楽さんは口の中を見せる。本当だ、確かに僕よりも牙は小さい。
「って、もういいから! わかったから!」
「あっ!? ごめん……」
気まずそうに相楽さんが口を閉じる。女の子の口の中なんて見るものじゃない。
「ま、まあそういうわけだから、頼める?」
「う、うんわかった」
ヴァンパイアの顔って青白いから、照れてるとすぐわかっちゃうんだよな。なんかこっちまで恥ずかしくなってくる。
でも、どうして相楽さんの牙は小さかったんだろうか。考えられることと言えば、ヴァンパイア化してからの時間だろうか。僕は6日寝ていたけれど、相楽さんはヴァンパイアになってから2日だ。
あるいは、投与手段かもしれない。僕は弥月先輩から直接投与されたけど、相楽さんは僕から与えられた。そういう違いもある。
それに関連してもう一つ。ウイルスの投与された量が違うかもしれない。相楽さんはヴァンパイア化こそしたけれど、他人をヴァンパイア化させるにはウイルスの量が足りないのだ。それが一番考えやすいことかもしれない。
ちょっと許可を取ってみるか。
「あのさ、後でもう一回血を吸わせてもらってもいいかな? ひょっとしたら何か変わるかもしれないし」
「うん、わかった。それより茜音のことよろしくね」
ちょっと恥じらいながらそういう。僕は改めて神戸さんに向き直った。
両肩を抑える。思ったよりゾンビの力は強い。
そして、神戸さんの首筋に牙を突き立てる。
「っ!?」
まずい! めちゃくちゃまずい!
「大丈夫!?」
「う、うん。ちょっと血がまずかっただけ」
思わず口を離してしまった。そう言えば、同じくゾンビになってた相楽さんの血を飲んだ時もめちゃくちゃまずい思いをしたっけ。あの時は生存に血が必要だったから我慢できたけど、これはきつい。
「ぐっ、くっ」
もう一度口を離す。あとで口直しが欲しい。というか、今すぐ口ゆすぎたい。
「ごめんね、変わってあげられなくて」
「いや、大丈夫だよ……、たぶん」
相楽さんと神戸さんのためだ。それに、弥月先輩も手駒は多い方がいいって言ってたし。
だから、我慢して続ける。
「……こんな、もんで」
臨界点を越えた気がした。あとは、ここから僕の血を流し込んでいくだけだ。
なるべく神戸さんの血を吸わないように、舌の位置にも気を付けて血を流し込んでいく。とくとくと、注がれていく感触があって。
「ん……」
パチリ、と神戸さんが目を開けた。そして……、
「このヘンタイ! い、一体あたしの体に何してんのよ!」
思いっきりビンタされてフッ飛ばされた。
……痛い。
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