第33話


「うーん、あっ……あそこがいいかな。人もそんなに通らなさそうだし」

「……ああ」


 そう言うと、俺たちは屋上前の階段に座った。


 こういった話をする時は大抵『屋上で』みたいな『お決まり』の様なモノがあるらしい。


 でも、残念ながら今のご時世では「危険だから」という理由から、屋上に入れるのは入学してすぐの学校案内のぐらいだけだ。


 それ以外はいつもはカギが厳重にかえられている。まぁ簡単に言うなら『この学校に入学出来た特典』という感じだろうか。


「……蒼」

「ん?」


 だんだん冷静になってきたのか……という事までは分からないけど、泰成の顔が青ざめているのは分かった。


「……」


 多分。さっき自分が言った言葉の内容を思い返しているのだろう。その上で「なんであんな事を言ったのだろう」と自己嫌悪をしている様だ。


 なんだかんだで泰成は学校行事などノリノリでやる。ただ、泰成は……そんなノリノリと楽しみにしている様子を見られたくないらしく、むしろ『クール』な感じを装いたいらしい。


 でも、俺から言わせると『それがかっこいいの?』という疑問しかない。そもそも俺がノリ気じゃないのは、ただ単純に面倒なだけである。


 それに。元々責任感が強い事もあってか、色々な仕事や係を掛け持ちしている事がある。


 それは、文化祭だけに限った話ではなく、毎日毎日なんだかんだ色々と頼み事をされている姿を見る。


 でも、本人としては無自覚の内にそうなっているらしいけど……。


「悪い。俺……」

「ようやく冷静になった?」


 俺の言葉を聞いて泰成はハッとした。多分、俺の言い方を聞いて『そこまで怒っていない』という事が感じられたからだろう。


「あっ、ああ。でも……」

「ふー、泰成の言いたい事は理解出来るよ」


 そう言いつつ俺は「うーん」と軽く伸びをした。


「…………」

「……でもさ」


「なんだ?」

「やっぱり弱いところとか格好悪いところ見せるのってさ。なんか、イヤじゃん? 特に異性の前ではさ」


 俺はそう言って笑った。


「本当は『絵が描けなくて固まっている姿』なんて……鈴宮に見せたくなかった。でも、あの状況じゃあ仕方ないよね。だって目の前にいるんだし」

「……」


「本当、なんでか真っ白いキャンバスとか画用紙を見るとさ……なんか頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃっうんだよね」


 今までも何度か絵を描こうとした事はあった。


 それこそ、絵を描く前は「何を描こう」とか「コレを描こう」とか色々と想像する事は出来るし、気合いを入れる事もある。


 でも、いざ紙などを前にすると、小学生くらいの頃はよく分からず塗りつぶしてしまっていた。


 今は塗りつぶす事はなくなったけど、色々な事が頭を過ぎり考えがまとまらず何も描けずに固まってしまう。


 ただ、それが果たして『何』によるモノなのかは……自分でもよく分からないし、分かってもいない。


「……そうか」

「だからさ、これ以上格好悪い姿は見せたくないし、知られたくないんだよ。自分勝手だとは思っているけどさ」


「…………」

「それに、泰成。前に言っていたよね、『近いタイミングで絵が描けるようになる』って」


「あっ、ああ」

「それってさ、もしかして俺が鈴宮に『恋愛感情』を持っていると思ったから、そう言ったのかな?」


「…………」


 ――無言。このタイミングでの『無言』は……つまり、そういう事なのだろう。


 それに、今にして思えば、泰成が何やら含みのある言い方をする時は大抵俺が鈴宮の話をした後だった。


 その事も含めて考えれば、比較的簡単に答えには行きつく。


 でもまぁ、そもそも俺が「そんな事ない」と……いや、そもそも「そんな事を考えていなかった」から、泰成の言っている事が余計に分からなかっただけなのである。


「……気付いていたのか」

「ここ最近になってなんとなく……ね」


 ただ、ここ最近になってようやく何となく……分かった様な気がした。だから正確には『気が付いていた』という表現は正しくない。


「でも、俺は鈴宮に対する気持ちは『恋愛感情』だとは思っていない」

「…………」


 俺が宣言する様に言うと、泰成は少しの陳文句の後。唖然とした表情と「は?」とはいう言葉と共に固まった。


「確かに俺は鈴宮がかわいく思える時もあるし、他のやつと話をしている姿を見るとムッともする」

「いや、それは…tね」


「でも、それは『友人』でもありえる話だ。仲のいい友人が他の人と話しているのを見て面白くないと思うのと一緒だ」

「いっ、嫌々……。それとこれとは……」


「姉さんに言われて俺なりに色々と考えた。つまり……この感情は『友人に対する感情』に似たようなモノだ」

「…………」


 そう言いきると、なぜか俺を見ながら泰成は「何も言えない」という感じで唖然としていたのだった。

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