第30話
次の日、俺と泰成は学校で先生たちから色々と事情を聞かれた。
まぁ、そうなるだろうな……とは思っていた。むしろ、昨日の内に聞かれなかった事の方が意外だった。
多分、色々と混乱していてそれどころではなかったのだろう。
でも、俺はその時今まで「良くない空気」の話はしなかった。それに、直接聞いてはいないけど、どうやら泰成もその話はしていないらしい。
泰成が言うには『泰成自身が感じていたワケでない』という理由から話さなかった様だ。
それに、俺はこの話をしたところで「根拠のない話」としか思われないと思っていた。
要するに『感覚』だけでは『証拠』にはならないという事だ。
「それにしても……はぁ」
「ああ、長かったな」
「あれかな。警察の取り調べもこんな感じなのかな?」
「……さぁな」
そう言いながら俺は机の上でグデーと伸び、泰成も珍しく疲れたのか椅子の背もたれに背を預けていた。
「まぁ、本来なら一生知らない方が良いことの一つじゃないか?」
「……そうだね」
俺はただ、あの教室にいた彼女たちから「鈴宮が授業から戻って来ていない」という聞いた。
その時に、俺はここ最近感じていた『イヤな予感』とその状況から、すぐに走り出す事が出来たのだ。
だから、この一見すると「根拠のない話」にも思われる『ここ最近感じていた事』を言わずに「どうして、鈴宮を探しにいけたのか」という事を説明をするのは、とても大変だった。
「……災難だったわね」
机で伸びていた俺の『上』から声をかけてきたのは、仮屋先生だ。
「災難……。まぁ、なんとなく事情を聞かれるとは思っていたので……災難というワケでも」
「……そうだな」
「ただ、その説明が大変だっただけで……」
「それが災難だったって言っているのよ」
事情を聞かれた後。なんとなく、周囲の視線を感じて教室に居づらくなった俺と泰成は、昼ご飯をいつもの美術室で食べていた。
普通であれば、美術室は飲食厳禁だ。
しかし、仮屋先生も昨日の出来事を知っていたのかどうかまでは知らないけど、疲れ切っている俺たちの姿を見ると「ここで食べたら?」と提案してくれたのだ。
「それにしても、そんなに疲れるのなら普通に言えば良かったんじゃないの?」
仮屋先生はどうやら俺たちの今までの会話の流れから『何か』を言わずに話をした……という事は分かった様だ。
「……信じてもらえるとは思えませんし、たとえ信じてもらえたとしても、それをまた他の人に説明する時が困りますから」
「そうだよな。俺は蒼を昔から知っているからこそ、分かる話だからな。それを考えると、全く知らない人は『何言っているんだ?』って思われかねないよな。あれは――」
「ふーん? そうなんだ。よく分からないけど」
――やっぱり、分かっていなくても「何となく」で会話の流れにのれるとはね……。
「……はい。俺が話さなかったのは、それこそ『根拠』とか『証拠』とかがある話ではありません。だから、そういう『根拠』などでなければ、最終的にはその人の話を信じられるかどうかという話になってしまうんです」
「ふーん。よく分からないけど、結局のところ信じられるのは『証拠』とか『根拠』という話になのね。悲しい」
「仕方ないと言えば、それまでの話だよな。全く知らない人間を信用するとかさせるには、それなりの実績か……もしくは、会話の中でその人を『信じられる』って思わせるかのどちらかだろうからな」
「それで、後者は時間がかかって前者は時間がかからない。だって前者は見れば分かるから……ってワケね」
ただ、悲しい事にこの『実績』がないにも関わらず『ある』という『ウソ』で塗りつぶす人もいる。
でも、それは「自分を認めて欲しい」とか「見て欲しい」という気持ちの裏返しの事が多い。
俺も、その気持ちは分かる……。
なぜなら、そうでもしないと見る事……それこそ見ようとすらしない人がいるのも事実だからだ。
ただ、それを認めてはいけないとも思う。ちゃんとしている人からすれば、その『ウソ』は『ズル』というモノになってしまうからだ。
「それで、名織ちゃんは……?」
「昨日は目を覚ましませんでした」
「そう……」
「…………」
仮屋先生はそう言って、俯いた。その様子を見ていると、やはり仮屋先生も鈴宮の事が心配の様だ。
「そういえば、前に鈴宮と二人で話していた話なんだが……確か『少年』だったか? 誰だったか分かったのか?」
だから、まさかこんなタイミングで泰成からこんな事を言われるとは思ってもいなかった。
「……聞いていたの? 確か疲れたとか眠いとか言っていなかった?」
「え……。ああ、確かに寝てはいたんだが……その、ちょっっと話し声が聞こえてきたから……つい……聞き耳を……だな」
まさか、聞き耳を立てられていたとは……。
「それで? 実際のところ、どうだ?」
「どうだ……って、さぁね。本人も名前を聞き忘れたって言っていたし……」
「いや、そうじゃなくて……だな」
俺の言葉に、なぜか泰成は言葉に詰まった。
「あら、名織ちゃんが聞き忘れた……って、それ本当なのかしら?」
「え?」
そんな泰成に代わって今度は仮屋先生がそんな事を言い出した。
「普通。出会って最初に自己紹介くらいはするんじゃないかしら?」
「たっ、確かに……」
「いや、もしかしたら蒼の様に『聞いたつもりになって、実は聞いていない』ってだけかも知れないな」
仮屋先生が援護になってくれた事により、泰成はいつもの調子を取り戻してそんな事を言い出した。
「……はっ?」
「なんだかんだで結局、聞けていないんだろ? 鈴宮の連絡先」
「あっ」
そこまで言われて俺はようやく思い出した。
鈴宮が学校に来るようになった事により「コレでいつでも聞ける」と思ったまま、行動に移すことすら忘れていた。
「あら、そうなの。それなら、教えましょうか?」
「……いえ、それは本人に聞きます」
仮屋先生の申し出は、確かにありがたい。でも、何となく『コレ』は本人に聞かないといけない気がした。
「あら、そう? それにしても、名織ちゃんが『聞き忘れ』をするなんて事。とてもしないと思うのだけど……」
「俺も自分で言っておきながらあれだが、確かに鈴宮ならそこら辺ちゃんと聞くよな」
「でも、聞き忘れた……」
「いや、でもこの言い方は……」
「…………」
俺は完全に置いてきぼりになっていたのだけれど、そんな俺を気にも止めず仮屋先生と泰成は何やら二人で考え込んでいると……。
『……あっ』
二人ともほぼ同じタイミングで『答え』に思い当たった様だ。
しかし、俺が二人に「どうした? 何?」と尋ねても、その『答え』については二人とも教えてくれなかった。
それどころか、泰成は「この『答え』は、俺本人が自分で気付くべき事だ」と言い、なぜか仮屋先生も隣で「うんうん」と頷いていた。
「…………」
――その言葉を聞いた瞬間。
なぜだろう。この言葉、俺は前に……いや、結構最近。どこかで聞いたような気がした。
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