第23話
私は、小さい頃。ここではないところ。高いマンションやらビルがたくさんある様な……いわゆる『都会』と呼ばれる様なところに住んでいた。
「…………」
そして、どうやら私は、比較的裕福な家庭に生まれたらしく、小さい頃から私の周りには大人がたくさんいた。
でも、そういった周りの大人たちは、色々な手を使ってなんとか私に気に入られようとしていた。
ただそれは、決して「私と仲良くなりたい」とかそういう感じではない。
どちらかというと、私の家族……いや、私の家に「気に入られたい」という気持ちがあった。
だからなのか、その人たちは私を怒る……なんて事をしなかった。そういえば……と、思い返してみると、私は同級生どころか誰かとケンカをした記憶すらない。
でも、たとえ私が仮に誰かとケンカをしたとしても、その人たちは私を悪くは言わずに、そのケンカした相手を怒っただろうと思う。
ただ、私に対する特別扱いは結構あからさまだったと思うから、誰も私にケンカをしかけてくる……なんて事はしてくる人はいなかった。
そりゃあ誰だって、怒られるのはイヤだからだろう。
そうしてようやく、周りの大人たちは私の名字を聞けば、大体の人は知っている……そんな家に生まれたのだと、理解した。
だからこそ、私について回ったのは、私と同じような子供ではなく、大人たちだったのかという事も同時に理解した。
しかも、みんな思ってもいない事ばかり「とりあえず褒めておけばいいだろう」というような事ばかり言う口先ばかりの人たちだった。
その上、みんな目の奥が笑っていない……そんな怖い人たちばかり。
みんな、私を通して見ているのは『私の家』であって『私個人』ではない。その事が、私をさらに孤独にさせた。
そして、小学生になる頃には、そんな見え透いた大人たちの『特別扱い』のせい……いや、おかげか私は『友達』が出来なかった。
そんな『存在』は、私の周りにはいなかった。
ただ、私が言いたいのは「私は『特別扱い』なんて全然望んではいなかった」という事だ。
私は……みんなと同じように普通に『友達』を作って、その友達と一緒に笑顔で毎日を過ごす……そんな生活を望んでいたのだ。
それでも、当時の私は……とりあえずみんなに嫌われてはいなかったと思うけど、だからといって何かされるような事はなかった。
まるで腫れ物を扱うかのように、遠巻きにみんな見ているだけ……それこそ、イジメなんて事もない。それはそれで良かったと思っている。
それに、私が話しかけさえすれば何かしらの反応はしてくれる。反応はしてくれるから、それで多少は孤独が紛らわされる。
ただ、その逆……つまり、私に話しかけてくれるような子はいない。
「なんというか……絵にかいたような『表面上だけのつきあい』って感じだね」
ここまで何も言わずただ黙って話を聞いてくれていた卯野原さんが、ポツリとそう呟いた。
「そう……ですね。しかも、この話は小学校に入学したばかりの頃でした。多分、親の影響を子供たちはダイレクトに受けていたんだなと、今となっては思います」
「ははは、基本的に子供は親の言う事は聞くからね」
「はい。あの子たちも色々と悩んで
「……かもね」
多分、同級生たちの親は『私と仲良くしなさい』と言っていたに違いない。
でも、私は先生たちから『特別扱い』をされている子だ。
そんな
知らないうちに同級生たちには『嫌い』ではなく『イヤ』という存在になってしまっていた私。
「それでも、私は楽しいとは思えないものの、とりあえず毎日学校生活を送っていました」
そう、何となく何気なく毎日を送っていた自分と周囲の温度差が目に見えて分かった出来事が起きた。それは――。
「私は、小学校に入った後も何度か入退院を繰り返していました。でも、その間。私のお見舞いに来た人は誰も……いませんでした」
元々、私はその事に対して特に何かを期待ワケじゃない。むしろ「ああ、やっぱり……」とすら思った。
頭ではそう思っていても、やはりその事実は悲しい。そして……その事実は私の中に暗い影を落とした。
「両親は、その当時海外出張が多くて家を空ける事が多かったのですが、この『誰も見舞いに来ない』という事実を知った事をきっかけに、私が学校で孤立していると思ったらしいです」
当時、私の病院に色々なモノを届けてくれたり洗濯してくれていたのは、両親ではなく一人のお手伝いさんだった。
そして、退院からしばらく経った後も、私の表情があまりにも暗すぎる事を不審に思った父が「どうして私の表情があんなに暗いのか?」とそのお手伝いさんに理由を尋ねた。
「それで、このままではダメだという話になりまして……」
「なるほど。それで、結果的に都会とも田舎とも言えないどっちつかずのこの町に来た……というワケか」
ここには、よく『田舎』と呼ばれるほどの山や田畑に囲まれているワケではない。でも、私が小さい頃に生活したような『都会』でもない。
卯野原さんは「どっちつかず」と言っているけど、私はこの『どっちつかず』の町を気に入っている。
「当時の私は、気持ちがかなり落ち込んでしまいまして……」
「うん」
「そうじゃなくても、元々テレビを見る習慣がなかったんですけど……さらに『何かをする』という事自体しなくなってしまいまして……ただボーッと毎日を過ごしていました」
「それは……仕方ないね」
そう言って卯野原さんは、苦笑いを浮かべた。もしかしたら、言葉に困らせたかも知れない。でも、コレが事実だ。
「ここで生活をしていく内に、私も徐々に明るくなったと思います。正直、元々がそこまで明るいワケではないのですけど……。それでも『友達』は出来ませんでした」
「そっか」
「でも、そんなある日。検査入院をしていた私に、声をかけてくれた『少年』がいたんです」
私がそう言うと、卯野原さんはまゆをピクッと動かし「少年?」と尋ね返してきた。
「……?」
どうしてその単語がひっかかったのかは知らないけど、私は素直に「はい」と答えた。そうすると、卯野原さんは「そう……」と言ってなぜか顔を下に向けて落ち込んだ。
「……?」
なぜ、卯野原さんが落ち込んでいるのかは分からない。でも、私が本当に話したかったのはここからだ。
別に、私が言いたかったのは同じように過去の話をして同情して欲しかったワケじゃない。
じゃあ、どうしてこの話をしたのか――。
それは、その時に私に声をかけてくれた入院患者だと思われるその少年が……卯野原さんにとても似ていた様に思えたから……。
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