第15話
「……それで、文化祭は鈴宮と一緒に回る事になった……と」
「まっ、まぁ……なぜか。そういった話の流れになった」
「なんでまた……俺が知らないうちに訳の分からない方向に話が……」
「…………」
頭を抱えている泰成には悪いが、こうなったのは完全に、仮屋先生のせいである。
でもまぁ、あの時に俺が先生と話をしている途中に「ははは、冗談を」とでも言っていれば、また話は変わっていたのかも知れない……とも言い切れない。
話の流れ……というか、なんというか。一応、俺の方から誘った……という事にはなるのだろうし。
「それにしても……そうか。でも、まさか蒼が彼女を連れて歩くとは」
「別に。彼女じゃないけど」
「ははは、そういう意味じゃないけどな?」
「…………」
「蒼、すごい顔だな」
「誰のせいだろうねぇ。誰の」
俺の言葉に泰成は「俺だな」と言って笑った。全く、仮屋先生も仮屋先生だけど、泰成も負けず劣らずの良い性格をしている。
「なんだかんだで、分かりやすいよな。蒼は」
「……うるさい」
「それで。看板の方は後は文字を書けば終わりって事か」
「ああ。そこは泰成に任せるつもりだったけど」
「最初からか?」
「ん? そりゃあそうでしょ。泰成だけ何もしていない状態だしね。今のままだと」
「ははは、なるほどな。蒼なりに気を遣ってくれたって事か、ありがとう。でも、あんまり期待してくれるなよ?」
「よく言う。なんだかんだで何度か書道で表彰されているじゃんか」
選択授業で、俺と泰成は同じ『書道』をとっている。
ただ、泰成は昔から『書道』を習っていたこともあってか、小学生や中学の時だけでなく、高校生になった今でも何度かコンクールに出展されて表彰されていた。
もちろん、選択授業で書道取っている人は全員出展しているらしいけど、入賞する人はほとんどいない。
だから、泰成の言葉は「そんなに上手くない」とも取れる言葉は、聞く人によっては嫌みにも聞こえてしまうだろう。
――まぁ、俺は気にしないけど。
「まぁ、あれだ。それはそれ、コレはコレってヤツだ。書道とポスターで書く文字は違うって事だ」
「そんなもん?」
俺の疑問に対し、泰成の答えは「そんなもん」らしい。ふむ、全然分からない。
「後は……ポスター担当の女子に『こうなった』って見せないと……だな」
「ああ、それはさっき写真を見せて伝えておいたから、泰成は気にしなくていいよ」
「そっ……そうか」
俺の言葉に、泰成は意外そうな顔をした。
「なんだよ」
何がそんなに意外だろうか。
「いや、前の蒼なら『女子と話したくない』とか言って『じゃあ、泰成が言っておいて』で終わりだったからな。そんな人間が自分から……ってなったらそりゃあ驚くだろ」
「……そうだったかな?」
正直、面倒な事になりそうな事からは全力で逃げていた記憶はあるけど。
「ああ。俺は昔から『蒼は出来る限り女子とは会話したくないもんなんだ』って思っていたくらいだからな」
「へぇ」
「へぇ……って、おいおい。自分の事だろ? でも、その割には普通に先生から言われた事とかは普通に伝えているから、どうしてだろうとは思っていたけどな」
「いや、俺としては、別に『話したくない』とかそういうのじゃない。ただ話をしているだけでとやかく言われるのが面倒だっただけだよ」
ちょっとでも会話をしている回数が多いだけで、なぜか周りからは「あの二人って……」みたいな噂をたてられる。
俺は、ただそれが面倒だと思っていただけなのだ。
「はぁ、なるほどな。今なら、女子と会話をしていても『文化祭に関する事か』って思われるくらいだもんな」
「そうだよ。全く、面倒くさい事この上ないや」
「ははは。俺はてっきり女子に相手にようやく免疫がついたかと思ったけどな」
「免疫がついたとかに関係なく、さっき泰成が自分で言っていた様に俺だって必要なら女子とも話す。別に女性恐怖症でもないからね」
「そうだな」
「ああ」
「それで……」
「ん?」
そう言いながら、俺は次の授業の準備をしていた手を止めて泰成の方を見た。
「その日、俺だけじゃ色々と不安だから……泰成も一緒に回ってくれると……ありがたい……と思って」
「…………」
そりゃあ、泰成だって自由に回りたいだろう。
二年になってクラス替えの結果。同じクラスになったからこうして一緒に話す事も増えたけど、こういう学校行事こそ部活の仲間と一緒に過ごしたいかも知れない。
「やっ、やっぱり……ダメ……かな」
だから、もし断られても、俺がそれに対して何かを言う事は出来ない。それこそ「そっか」とか言って受け入れるしかない。
「いや? 俺は最初からそのつもりだったぞ?」
「え」
「それこそ、鈴宮と一緒じゃなかったとしても、俺は蒼と一緒に回るつもりだったんだけどな?」
「えっ、あっ……。ありがとう?」
「ははは、別に礼を言う事じゃないだろ?」
「それは……そうなんだけど……なんだろ。そんな気分になった」
「なんだよ、それ」
「うーん、よく分からない」
本当に俺自身でもよく分からない。でも、何となくお礼を言いたい気分になったのだ。
「じゃあ、文化祭当日は……あ」
「どうした?」
「悪い。俺、最初は部活の出店の手伝いしなくちゃいけないんだった」
「ああ、それならそれが終わった後で合流すれば大丈夫。最初は、ここ最近準備に使っていた美術室に行く予定だったから」
「そうなのか?」
「うん。なんでも、美術科生徒の作品と美術部の作品を展示する予定らしいから」
「そう言えば、文化祭がある三日前から立ち入り禁止になるんだったか」
「そうそう」
どうやら仮屋先生は、その
「まぁ、借りたお礼って事で見に来て欲しいって言われていてさ」
「なるほどな。じゃあ、その後に合流するか」
「そうだね」
「ああ。一応、連絡を一回はしてくれよ? 行き違いは避けたいからな」
「分かった」
そう返事をした。
そして、泰成が自分の席に戻った後。さっき話していた時に出た『連絡』という単語で思い出した。
そういえば昨日、仮屋先生は「名織ちゃんから体調が良いって言う連絡をもらっていたから」と言っていた。
「そういえば……」
この時まで俺は忘れていた。そういえば『俺。鈴宮の連絡先、知らない』という事を――。
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