第4話
「蒼、どうした? なんか……顔色悪くないか?」
「ん?」
昼休み。元弥さんが作ってくれたお弁当を広げていると、いきなり友達にそう聞かれた。
「いや、まぁ。今日、遅刻しそうになったから朝食抜いちまったから……そのせいだとは思う」
そういえば、今朝。時間ギリギリになってしまって元弥さんが作ってくれる朝食を食べそびれてしまった。
――もったいない。元弥さんの料理は、姉さんとは比べものにならないほどとても美味しいのに。
それにしても、仮屋先生にも言われたけど、俺は朝食を抜くと、色々な人に心配されてしまうほど顔色が悪くなるのだろうか。
「一応、野菜ジュースは持たせてくれたんだけど。今日の授業、休み時間中に食べられそうな感じじゃなかったから」
まぁ、あの『絵』を見に行った休み時間の時に食べておけばよかっただけの話ではあるのだが……。
俺にとってはあの『絵』を見に行く事の方が食事より大事だったのだ。
「……そうか」
それだけ言って自分の椅子を持ってきたこいつの名前は『
小さい頃の『ある日』を境に、俺は姉さんたちと暮らすようになったが、決して住む場所が遠くなったワケではなかったから、なんだかんだで保育園の時からの付き合いになる。
まぁ、元々姉さんと元弥さん夫婦が近くに住んでいた……というだけ理由なのだけれども……と、その話は今はどうでもいい。それよりも……。
「あのさ、このクラスに『
「ん? ああ、いるな」
案外、あっさりとした答えが返ってきた。
「そっ、そう」
「ああ」
ただ、やっぱりいるのか……。まさか、俺だけ知らないのだろうか……。いや、それを考えると、今知れてよかった……と思うべきなのだろうか。
「まぁ、蒼が知らないのもムリもないだろ」
「それは……どういう事?」
「あいつ……鈴宮は病弱なんだ。だから、このクラスに一度も来ていない。一度も来ていない人間の顔を覚えるのはムリだろ」
「……そうだね」
そう言えばそんな事を言っていた。ただ、仮屋先生は「この『絵』を仕上げて以降」としか言っていなかった。
ただ、姉さんが言っていた話を思い返してみると……確か「クラス替えがあった」という話はしていた。
まぁ、その時点で入院していたか……という事までは言ってはいなかったけど。
「まぁ、俺の場合は一年の時に同じクラスになったから何度か見た事があるって程度だけどな」
「どっ、どんな子なのさ。その子……」
「どんな……か。うーん、一言で言えば『大人しい』って感じ……だな。いや、どちらかというと『はかない感じ』というか……」
「それは……病弱だからじゃないの?」
「いや、病弱でも明るい子はいる……。いや、鈴宮が暗いってワケじゃないぞ?」
「……言いたい事は何となく分かった。暗いってワケじゃなくて……あれだな、守ってやりたいって感じなんだね」
俺がそう言うと、泰成は「そういう感じだ」と答えた。どうやら分かりやすい例えが思いつかなかった様だ。
「それにしても……」
「何?」
「いや、蒼が人に興味を持つっていうのがな……」
「なんだよ、そんなに珍しい?」
「ああ、珍しいな。俺から見ると、蒼は人だけじゃなくて、何事に対しても基本的にやる気がない様に見えるからな」
「そこまでかな」
「そこまでだ」
「……」
ここまでハッキリと言われてしまうと、俺も言葉に詰まる。
「でもまぁ、鈴宮はテストの成績はいつも上位にいたからな」
「えっ、そうなの?」
「……やっぱり知らなかったか」
「いっ、いやぁ。あははは」
いつも成績なんて「赤点を取っていなければいいや」くらいにしか思っていなかったから、上位の人の名前なんて知らなかった。
そもそも『頭が良い』は、姉さんの担当とすら思っていたくらいで、俺にとっては良い成績を取るよりも、悪い成績を取らないという事が大事だったのだ。
ちょっとでも気を抜けば、下から数えた方が早いだけでなくもれなく赤点もオマケで付いてきます……なんて事になりかねない。
「ちょっとは見ておけよ」
「いやいや、自分に関係のあるところだけ見ればいいじゃん。そりゃあ、泰成は成績が良いから気になるだろうけど」
「それは否定しない」
「しないんだ」
「事実を言ったまでだ。それで、なんでいきなり鈴宮を知りたがったんだ?」
「いっ、いや。それは……」
ここまで成り行きではあるものの、自分の知りたい事を聞いてもらっておきながら、その理由は話さないのはどうだろうか……。
「まぁ、言いにくいのならムリしなくていい」
それに、泰成は……友達だ。ここで話しておいた方が、後々で相談もしやすいだろう。
「いや、泰成にはちゃんと話しておく」
「……そうか。ありがとう」
そして、俺はここ最近あの『絵』を見つけた事とその絵を描いたのが
「……そうだったんだな」
「ああ」
「それでその絵を描いた鈴宮の事が気になって俺に聞いた……と」
「ああ」
とりあえず、一通り話をした。
――話した……のだが、話をした後になぜだか
そのせいか、俺は泰成の言葉にただただ「ああ」という相づちを返すくらいしか出来なくなっていた。
「なるほどな。それなら……分かるな」
「……分かるの?」
「付き合いが長いからな」
「そういう付き合いって関係ある?」
「さぁな。それに、話に『絵』が関わっているからな。まぁ、その辺りが蒼らしいと思っただけだけどな」
「そう……かな」
「ああ、蒼と言えば『絵』ってくらい『絵』を描いていたからな」
「……そこまで? 確かに、今更ながらあの時の事を思い返してみるとよく飽きもせずに同じ絵ばっかり描いていたな……とは思うけど」
「そういえば、今はほとんど描かなくなってしまったな」
「そう……だね。高校で俺は美術も取っていないし」
泰成の中では、どうやら俺と言えば『絵』というほど定番の話らしい。
「まぁ、また描いたら見せてくれ」
「ははは、いつになるんだろうね。それ」
俺がそう言って笑いながら言うと、泰成は「意外と早く描く事になると思うぞ」と言った。
「……そう?」
「ああ。コレは自信がある」
その泰成の言い方が……なぜこんなに自信満々だったのか……この時不思議に思ったが、それに対して俺は何も言わなかった。
多分、この時の俺は「そんな事にはならないだろう」と思っていたからだろう。
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