第177話 ヤマ
陽太郎が素出川のアパートの鍵を開けてくれた。
けど、もう分かってしまった。
何とも言えないニオイが扉を開けた瞬間にした。
私はその場から動けなくなった。
そっか。
予測していた。
考えていた。
そんな事もあるんだろうって。失うかもしれないって。もう会えないかもしれないって。
インフルエンザになった素出川は、元気そうだった。
インフルエンザで元気そうって、何を思ってそう感じたのか、過去の私に聞きたい。
でも、単純に元気なフリをしていたと思う。
痩せ我慢だ。
私の前で、男ってこうなんだって感じで我慢していた。
素出川は、ずっと1人で生きてきたんだ。
私がえっちな事に興味津々だった時、素出川は毎日を生きていた。毎日を必死に生きていた。
あ〜私は馬鹿だ。
なんで、友子と喧嘩したんだ?
なんで、素出川の事をもっと1番に考えなかったんだ。
なんで。
涙が止まらない。
どうして?
どうして?
「素出川!!!」
私は、玄関で叫んだ。
奥で友子が泣いている。
奥からヤマがゆっくり歩いて、玄関の私にすり寄った。
まるで、何も無かった様に。
同居人が死んでいる事なんて、知らない様に。
続く。
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