10-3節

 放課後、忍者協会支部にて、膝を折った花岡は粛々と報告を行っていた。

「……以上が顛末です。我々の力不足が招いた結果と言えます」

 痛切に耐えぬといった様子で伝える彼を、好々爺こうこうや然とした顔つきで見ていた支部長は、穏やかに語りかけた。

「苦労したようですね。いい経験になったでしょう、私どもの目論見もくろみとしては成功したわけだ」

「しかし……任務の失敗に釣り合うとは思えません」

「おや、そうでしょうか」

 言って支部長は、傍らにあった箱をさわった。紛れもない本物の千両箱から、金色の微光が漏れていた。

「経緯はどうあれ、宝は届けられました。それでも君は失敗だと?」

 数分前、不首尾ふしゅびを伝えるつもりで来た花岡は驚愕した。聞けば今日の早朝、支部長がここの鍵を開けた時、すでに置いてあったのだという。支部長もてっきり花岡の仕業と思っていたので、辻褄を合わせるのに手間取ったほどだ。

 暗躍していたとおぼしき伊豪家の娘は気になるものの、宿願だった宝は手に入り、経験を積ませるという狙いもうまくいった。支部長からすれば、万事が手筈通りに進んだといっても過言ではなかった。

 ところが花岡は、頑なに甘んじようとしない。

「失敗は失敗です。たまたま結果として目的の物が転がりこんだだけで、置いた人間の気まぐれに過ぎない。運が良かっただけです。僕らに実力がもっとあったなら、自分たちで成し遂げていたでしょう。むしろそうあって然るべきだ。雹隠氏も言っておられましたが、他人が与えた成功は成功とは言わない。僕もそう思います」

 あくまで強硬な姿勢だった。自らの道の険しさを、花岡は予期していたからだ。

 彼の話を否定はせず、支部長は「ところで」と転じた。

「君は今回、彼と任務を共にしましたね」

「……結果はどうあれ、飛騨くんが無断で任務に加わったのは事実ですが、これも僕の弱さゆえ。彼は悪くありません」

「いえ、咎めるつもりはないのです。ただ一つ考えてみてほしい。今の場面、彼が君の立場なら、どうすると思いますか?」

 言われて、花岡はこの二日を思い返してみた。たったの二日だが、これほど濃い時間を過ごしたことはない。共闘した。喧嘩もした。吐露した。説教された。様々な顔を見て、見られて、手に入れたもの、なくしたもの。

 それらをひっくるめ、思い浮かべた時、想像があまりにも真に迫っていたので、花岡はつい、ほくそ笑んだ。

「彼なら、分け前を要求しますね」

 支部長も乗っかった。

「ついでに経費まで請求しそうです」

 二人してくつくつと笑いあう。どうも、すぐに固くなってしまうのは自分の悪い癖らしい。立ち上がると同時に、思いがけない軽さを感じた。

「ではこれで……」

「修行ですか。君は熱心ですね」

「それもありますが、今日は違うんです」

 不思議そうな支部長に、花岡はやや照れ臭そうに告げた。

「携帯ショップに」

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