10-2節

 続々と制服姿の若者が入ってくる。友人と昨日のテレビの話で盛り上がったり、ひっそりと本を読んだり、男子禁制の恋話に花を咲かせたり、はたまた朝練を終えてジャージ姿のまま駆け込む運動部たち。いつもと変わらぬ朝の風景だ。

 ただあまりにも変わらない。変わらなさに納得できず、いぶかしげに横目を向けた。

「で、なんでおまえがここにいる」

「昨日は日曜で、今日は月曜だから授業がある。あなたの席はそこ、わたしはその隣り。何か不自然な点があるかしら」

「どのツラ下げてここにいるって言ってんだよ!」

 生傷だらけの顔で、麓丸はわなわなと恨みつらみを並べた。

「あの後どれだけ大変だったかわかるか……あっさりと城はぺちゃんこになるわ、ぺちゃんこにした奴に一晩中追い回されるわ、生きた心地がしなかった。正規の手順で冥土送りにされるところだったんだぞ。思い出しただけで身震いが止まらん。鞄にごま団子の包みが入ってなきゃ、コンビニに入る時間すら稼げなかった。鬼の形相ぎょうそうで焼きプリンを持ってレジに飛び込み、店員に憐れまれた気持ちがおまえにわかるか」

「つまり、焼きプリンは最高だぜえ! という話ね。良かったじゃない」

「違うわい! 見てたくせに阿保!」

「一緒に朝ごはんまで食べてきたのに」

「その時点でおかしかったけどあらためて言うんだよ!」

 つっこんでから、ぐったりと机に突っ伏した。

「ああ……これでどうせまた、飛騨がやらかしたとか言われるんだ。この調子じゃ、お家の再興なんて夢のまた夢だ……」

「でも、夢は叶えてしまったら夢じゃなくなるのよ」

「夢を終わらせたいんだよ、おれは」

「自由って難しい言葉よね。自由でありたい、自由でいるという意思がすでに自由じゃないのだから。自由こそが何より人を縛ると思わない?」

「やめろ、ややこしい話をするな」

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