4-3節
衣服が乾いてきた頃、店主が言った。
「そういや兄ちゃんらは、陳福の屋敷に用なのかい?」
「……なぜですか?」
「なぜって、ここは屋敷の地下だぜ」
驚いて、入店時とは逆の入口から外へ出るなり目に飛び込んだのは、機械仕掛けの馬だった。洞窟の壁をぶち抜き、派手な装飾のメリーゴーランドがあったのだ。コースターやミニ観覧車もあるが、いずれも動力がないのか止まっている。巨大なガレージには、屋形船やレーシングカーまである始末だ。
こんなところへ置いてどうするのかはわからないが、麓丸が気になったのは、そこかしこに妖怪がいることだった。警戒されているのか、物陰から見られている。
「そいつらはここに住んでるんだとよ。最近は土地開発だなんだで、どこも大変らしいぜ」
店の入口まで来て店主が教えてくれた。それから奥に搬送用のエレベーターがあることも。つまり麓丸たちは裏口から入ったことになるが、平然と客を出迎えた店主はやはり素晴らしい気構えである。
「ごちそうさまでした」
「おう、また来な」
固い握手を交わし、エレベーターへ向かった。
その途中、ぐるぐる回るコーヒーカップの中に、麓丸は知り合いの姿を認めた。
「おい、陀羅じゃないのか」
「んー? あっ、おっす!」
急停止して陀羅が出てきた。
「ここに住んでたのか」
「いんや、おいらは家ないよ。配達がてら遊んでたのさ」
「そうかそうか。ご苦労さん」
ふと思いつき、陀羅に便箋をもらった麓丸は手紙をしたためた。
「師匠が僥倖のラーメンを食べたいと言ってたんだ。場所をお教えせねば。師匠の道場はわかるか?」
「うん、わかるよ」
「じゃあ先に駄賃を受け取ってくれ。師匠に払わせるわけにはいかんからな。便箋代とで二つだ」
懐の小瓶から、陀羅の手のひらにあめ玉を出した。
「わあ、ハッカだ。メロンだ」
「くれぐれも着いてから食べるんだぞ」
じゅるりと口をぬぐった陀羅は「おいらもう行くね」と言うが早いか飛びだしていった。それもラーメン屋の裏口から。きっとそちらの方が近道なのだろう。陀羅ならば水上を走ってもおかしくない。
気を取り直し、エレベーターに乗り込んだ。目指す巻物までもうすこしである。
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