第55話 魔法石
手を差し出したアルミス。
「え、なに?」
先日の事もあり、ボクは少し身構えた。
隙あらば何かしらやってくるアルミスのことだ。警戒心が身体から抜けない。
「そんなに身構えなくてもいいじゃない」
「いや。だって何かしてきそうで……」
晩ご飯後。他の二人は自室に居るんだろう、ダイニングにボクとアルミスの二人だけの現状。
「何かしていいのかしら?」
にやりと笑みを浮かべるアルミスに不信感を抱いた。思わず後退りをしていた。
「遠慮しておくよ」
「――――と冗談は置いておくとして。壱曁、これを持っていて」
そう言ってはボクの手に何かを握らせた。触った感じこれは石、だろうか。
指を伸ばし掌を見れば黄色で中に淡い光が灯る石があった。
それ自体が輝いてるというより、窓から射す月明かりを反射して光っているというべきか。
自然と一緒に煌めく物体は魔法の石とかか、一体なんなのだろうか。
「これは?」
「魔法石」
当たりみたいだ。
しかしそんな石をどうして渡したんだろう。只の“プレゼント”というわけではないだろうし。
「あら、ただのプレゼントはダメかしら?」
「わざわざ心読まなくてもいいと思います。いやね、アルミスなら何か意味ありの物を渡してくるだろうと」
その言葉にアルミスは少し驚いた。しかし嬉しそうな表情に直ぐ変わった。
「話を戻すけど、それを使うと遠く任意の場所に移動出来る。……あいつはすごく強いわ」
「聞いたよ。要は、危なくなったら逃げろって言うんだよね」
「えぇ。そうなった時は石を使ってクルと美鈴をつれて逃げてほしいの」
まただ。
この世界には日本と違って殺される危険性が多くあった。
魔物の存在とかが主だけど、この前の戦争の様に人に殺される可能性だってある世界だ。平和とは程遠い。
だからそんな弱いボクの事を心配をしてる。してくれている。
でも駄目だ。一度刃を向けた相手に優しくする人をほっては置けない。
「心配してくれるのは嬉しいよ。でもアルミス。それだとアルミスが入っていない」
「最悪な状況になった時、私があなた達の逃げる時間を稼ぐわ。だからその間に逃げて」
「もしもの話なんだからクルと一緒の答えだよ。アルミスは強いし、だから……」
他力本願じみている。
「確かに他力本願ね」
ふぅと息を出す。
「あなたの事だからそう言うと思っていたわ。だからもう一つ言いたいことがあるの」
「なに……?」
「どんな危機に遭っても絶対に自分の身を犠牲にはしない事、自分自身をも守る事。それが約束できないなら戦いには出さない」
睨む目つきは今までに感じなかったものがあった。
いつもなら大丈夫と言っていただろうが、今のボクには返せる言葉が無かった。
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