第54話 会話で解決
「そろそろ帰ってきますので、見るのはここまでと致しましょう」
使用人の女性は映像を消した。
それは丁度、少年が落雷に撃たれて倒れたすぐあとの事だった。
しばらくし白く光る両開きの扉と一緒に少年を肩に抱えた人影が出てきていた。
魔法の扉は閉じられ背景と同化するように消滅、彼女は少年を床に降ろす。
「ほれ、もうたてるじゃろう?」
「……ここは。あれさっきまで白黒の場所に」
混濁する記憶に反し痛みは全く無く、傷等も一切ない。ボクは机の脚に凭れている。
「おぬし、おぼえておらんのか? さっきのらくらいでダウンしたのじゃよ。おまえのまけじゃ」
映像を巻き戻す様に脳裏を覗く。
傷、魔法をくらって倒れて、でボクは刺された。その後は何も記憶していない。
そうか負けたのか。当然と言えばそれまでだけど、この人の考えに少しでも変化があれば良いな。
「負けたか」
気づけば美鈴が横まで来て座っていた。
「お兄ちゃんお疲れ様です。お兄ちゃんは十二分に頑張りましたよ」
「そうですよお兄様は十分頑張りました! でもごめんなさい私があんな事言ったばっかりに」
励ましの言葉をかけてくれているのが身に染みる。
でもありがたい事だけど勝てなかったのは事実だ。もっと強くならないといけないという事でもある。
「気にしてないよ」
いつまでも座り込んでるわけにもいかないので立ち上がった。
「どうして勝てないって分かってて挑むのよ。無駄に心配かけさせないで」
怒っている。
「ごめん。闘ったらさっきの話、気を変えてくれるかなって思ったんだけど。……結局みんなに心配かけただけだった。駄目だな」
「そう思うなら少しは自分の事も考えて。分かりなさい壱曁」
「うん。ごめんね」
「やはりそういうりゆうか。なら、そちにいっておくことができたのじゃ」
ボクの方を向いてそう言う。
「何でしょうか」
「さきほどのてがみのけん。そちたちのおうからきいておるじゃろう?」
「何となくですけどね。でもどんな敵かは聞かされていません」
「そうかそうかならばそち、わらわの“せんゆう”になるのじゃ」
楽しそうな顔だ。そういや闘いが好きって言っていたっけ。だから戦友。
「どうしてですか?」
「かんたんなことじゃ。そちはあやつのいっておる“あいつ”をしらないんじゃろう? そんなじょうたいじゃあいつにはかてぬ。しったうえでたたかうほうがよいからの。まぁそのわらわでもふういんでせいいっぱいじゃったが。ゴホン、そこでじゃ。わらわがそちにやつのじゃくてんをおしえてとっくんしてやる。それでたおすことができるじゃろう? だからこそのせんゆうなのじゃ」
満足そうに説明しているがこれは如何にも。
「話に割って入ってすみません。さっき”つまらない”と言ってましたが、それ程まで余裕を見せているのに倒さず封印で終わらせたのはどうしてですか? それにもし本当にあなたが倒せないとしたなら、数時間練習した程度で私の兄が"倒せる"訳無いですよね?」
これは怒ってる話し方だ、美鈴。
「げっ……」
「お嬢様。墓穴を掘りましたね」
さっきの楽しそうな顔がなくなっていた。後悔したような顔か。
それにしてもメイドさんが容赦ない。
「ほ、ほら。わらわっていそがしいからの。ここからはなれられないのじゃ」
すごく焦っているのが分かりやすく表情に出ている。戦闘以外駄目な人なのかもしれない。
「お嬢様。失礼ながらお嬢様は職務を5日放棄していますが。目を通していない書類はたまりに溜まって今では50枚ほどになっております」
「あ、えっと。……」
すごく焦っているこれはこれで面白い。
「そしてお嬢様。二つ付け加えますと。“あれ”が現れると此処と交易をしているそちらのお客様方のおられる国が崩壊する可能性がございます。そして強力な封印が出来るのはお嬢様だけでございます。そして他にも――――」
実は結構毒舌なのでは。
「うぅうわ、わかったわかったのじゃ! わかったからわらわをせめるでないのじゃ!」
頭を抱えて唸りその人を指し返す言葉。
メイドさんのお陰で助かったみたい。何とかなって良かった。
「ああそうじゃ。そういえばなまえをまだいってなかったの。わらわはアリシエル・リア・ウォルコット。よろしくたのむぞ?」
「私はセリカと申します」
端的に軽く頭を下げ挨拶をした。
「クルです」
「私はアルミスよ」
二人も直接的だった。
「ボクは壱曁といいます。こっちは妹の」
「美鈴ですお兄ちゃんが大変お世話になりました」
怒ってる、いわずもがなボクの事だろうけど。
挨拶を終え駄弁りを交えた後ボク等は先に王都へ戻った。あの館にも王さんの所と同じような転送の魔方陣があって楽に帰れた。
それとまだあいつとの戦いまで時間があるそう。一度出現させ、封印の前にある程度弱らせてそしてから封印する。という作戦。
王に事の報告を済ませ、そのまま王都から直接家に帰った後。
「アルミス、どうしたの?」
「あなたに渡すものがある」
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