第53話 闘いの幕開け

「消えた⁉」

「お兄ちゃん!」

 気づけば目の前に居た少年が消えていた。先程まで座していた人物も同じくして。

「ご安心下さいませ。お嬢様の魔法により異空間に飛ばされただけです」

「せめて見る事は出来ないの?」

「可能でございます。ですが、分かっておられる通り手は出せないので御了承くださいませ」

 そう言っては到底この俗世に似つかわぬ物を、リモコンを操作し映像を空中に映し出した。

「……これは」

 映像自体。いやその全てを見て美鈴は口をこぼしていた。

「貰い物でございます」


「っく――――」

 剣で飛びかかっていったが、相手の魔法で作られた壁に跳ね返され、もとの位置まで飛ばされた。

 着地に合わせ崩れたバランスを剣で身を支えるように地面に突き立てる。

「ほう? いきおいはよいの。だが、わらわにはかなわなかったようじゃ」

 魔物との戦いが少し慣れたからといってその剣を人に向かって振るっていうのは怖い。

 しかし相手が勝っているからだろうか、剣を振りかざし刃を向けれた。

「そち、たたかいなれてないじゃろう。けんのふりがざつじゃ。よくもそれでわらわにいどめたものよ」

 身を任せるかの様に、ゆっくりと横に手を伸ばせば、たちまち空間にひびが入っていく。

何かを取り出し片方を床についた。

 あれは。槍のような武器に布が付け加えられている。真っ黒な旗に、赤を主体とし金で装飾された槍。

 その旗を掲げ呪文の詠唱を始めた。ボクはその瞬間を好機だと思い剣を握りしめ走った。

「あまいの。ひっかかりおって」

 軽々と振られた旗は、容易にこちらの刃をを阻止していた。しかも余裕の顔で。

 やっぱりボクには無理だ。と思わずにはいられないぐらいの力の差を感じる。

 立て続けに剣を力強く振り下ろす。がしかしすべて相手の武器によって打ち消される。

「そろそろ、そちもじぶんのこうげきばかりであきてきたじゃろう?」

 頬の上がりと言葉を残し魔法を放った。

 雷が頭上から落ちる。それを避けるべく後ろに跳んだ。

しかし立て続けに落雷が降り注ぐ。

 それらを避けるが。足元の疎かさに気づいた時すでに体の自由は失われ、ついには直撃してしまった。

「わらわのかちというわけじゃな。やはりよわいではないか、そち」

 体が痺れて動かずボクに近づくその人を横目に倒れ伏した。

 まだ、意識はある。体を動かさないと……。


「お兄様!」

 映像を前に、少年を心配する三人。少年が倒れてしまった事に気がきでない。

「御心配無く。この異空間を出れば傷は無くなります」

「でも……!」

 心配で頭がいっぱいになる反面、また彼を映像越しに見続ける。


「ボクは……まだ」

 痺れ、痛みを発する手を何とか動かし、剣を握る。

「あわれなものよな。どうしてそこまでしてたたかうのじゃ」

 見通していた。この無謀な闘いを。

「……」

 そんなのは分かってる。最初に決めた事。ただそれを守る為だけに苦しみに耐え続けるんだ。耐えろ。足を伸ばせ。

 息を整えて、満を持して立つ。

「ほう。そんなきずをおってさえたちあがるのか」

 半ば切れかけた意識の中剣を振り上げた。

 斬りかかった。とても貧弱な身体で。

「そのがんばるいしはみとめようではないか。じゃが、それだけじゃ」

 弱々しい振りは届かず。

「ぐふっ――――」


 少年を突き刺した旗を持ち上げる。

 めり込み、血飛沫が黒い旗に付着し旗を持つ人物の顔にも飛び散る。故、絶え間なく流れ続ける。

 動かなくなってしまった兄。同時に扉は現れた。

「あんしんせい。このくうかんのできごとはもどればなかったことになる。まぁきおくはのこったままじゃが。すまんな、こうでもしないと出られないんじゃよ。ここ」

 ため息をく。

「まったく”誰か一人にならないと出られない”なんて空間をよく創ったものよ。親父は」

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