第52話 手紙と弱き者
6階建てだろうか屋敷と城を合わせたような建物。ボクが好きな装飾が施されている。
屋敷を囲むレンガの壁とその上にある黒いフェンス。弧を描いた鉄格子の扉が目に入った。
まるで来ることを知っていたかのように、家の中から扉を開けてメイド服を着た使用人らしき女性がこっちに向かう。
「何か御用でしょうか」
「あの、すみません。この手紙をこちらの人に渡すように言われて、来た者なんですが」
預かった手紙を差し出す為、背丈を合わせるべく上を向いた。
よく見ればその顔は、凛とし何をも思わせない表情をしているものの、依然として瞼を閉じたまま。
直感だが、この女性は目が見えないんだ。とそう思わせる。
気難しく王さんとは違う人か。あまり時間掛けないように大事にならないように気を向けないと。
とは言え、やっぱり簡単にはいかなそうな雰囲気だ。
王さんは少なくとも、今会おうとしている者の知人か友達。最悪の事態だけは避けれると信じていよう。
「中でお待ち下さい」
そう言って、鉄格子の扉を開きボク等を屋敷の中へ案内した。
数十分後。
「……ことわるのじゃ。わらわが、そのようなつまらぬたわいごとにてをのばすことなぞ、あるはずがないのじゃ」
机に上に手紙を投げ捨てて赤に金で装飾された椅子に座り、こちらを見下している。
やっぱり王さんの言っていた通り一筋縄ではいかなそうだと実感するけど、なんとしてもこの人に戦力になってもらわないといけない。
「それに、そち」
指差す幼く見える姿からは、想像出来ないであろう言動に感じる。
「なんですか」
「そちはよほど、よわいとみえる。そちもかんじておろう? まわりのものよりおとっている、と」
ボクの在り様を見ている。まぁ確かに、鍛えられた体じゃないからそう言われてもおかしくない。
「そんなそちがどうしてまわりをまもれようか、わらわにはわからぬ。あやつはそちのどこをきにいったんじゃ」
「――――お兄様は弱くなんかありません!」
突然、クルはそう言った。
ボクが弱いと言われている事に怒っているんだろうか。でも実際ボクは弱いから、何も言えない。
「ほう? おもしろいの。ならわらわとたたかい、わらわにそのちからをみせよ。もちろん、そちだけでじゃが……」
その人は再び目を合わせ、指をさす。
勝てる気がしないのはボクだけじゃないはずだ。……でも。ここで闘えばさっきの話、考え直してもらえるかもしれない。時間短縮の可能性があるなら。
「わかりました。闘います」
「! お兄ちゃん⁉」
「大丈夫。出来るだけの事はやるから、心配しないで」
「きまりじゃ」
気迫を胸に貯め、怖気づかないように息を吐く。
瞬き一つかわしたその合間に、気づけばさっきまでの部屋とは全く違う空間に居た。
「わらわはたたかいがすきなのじゃ。せめてすぐにたおれる、なんてことはやめるのじゃぞ」
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