第48話 助っ人
「お兄ちゃん、後ろから走ってきます!」
美鈴の声で振り返り走ってきていた小さな生物を倒す。
「はぁはぁ」
刃物で生き物を切る感覚。生命を奪う感覚。切り筋から溢れ出る血。叫び声。
どれを取っても最悪なものでしかない。
「気持ち……悪い」
吐き気を催す。
「お兄ちゃん……」
膝と手をつくボクの背中を擦ってくれる。
「ごめん、美鈴」
唾を飲み込む。
「はあ、慣れなきゃいけないのに」
溜息混じる苦し紛れの声が出た。
どうにも忘れられそうにない五感への刺激に耐え兼ね、等々物を吐き出す。
とてもみっともない自分自身に目を向けられないでいるのに、美鈴はずっと側で背をとんとんと優しい行動を取ってくれていた。
「ごめんね。情けないねボク」
苦笑いを見せた。
「生き物を殺すのは慣れるものじゃ無いです、どんな時だってそうなってはいけないんです。相手の命を奪う事は、最悪であって良いんです」
――そんなのは只の化け物。
「……美鈴」
どうしてこんな事を言わせているんだ。
妹に心配を掛けさせて、余程こっちの方がみっともないじゃないか。
「その通りだね美鈴。ありがとう気が晴れたよ」
再び鞭を撃つように美鈴の手を借り立ち上がる。
今度は、討つ相手に敬意を込めて。
「頑張り所ですよ、お兄ちゃん」
同じ魔物が数匹襲い掛かっていた。
少しずつであれど魔物との戦闘が上手く出来る様になる。
あの現象は起きていない。
「お疲れ様です、お兄ちゃん」
「美鈴もお疲れ」
そう言って、ボクは美鈴の方へ歩いていった。
お互い背中合わせで少しの間戦っていたが、そろそろ体力の限界で休みたい。
「休憩しよう」
「お兄ちゃん。私はまだまだいけますよ」
「ボクが持たない」
「ふぅ仕方ないお兄ちゃんですね。私も休みます」
岩陰に座って空を見上げた。
そういえばクルから聞いた話、受けた依頼はギルドに報告するだけで報酬がもらえるという。
大雑把に肉片を持ち帰ったりとかしなくていいし、数が曖昧でも問題ないみたいだ。
優しくて良いんだけど、それをやってのけるのは普通に凄い。信頼性が高いんだろうな。
まあでももし嘘をついて報告したとしても、後々依頼者からクレームきそうだし。
それで何とか上手くやってるのかも。
物を叩き壊す様なふいに聞こえた音。左に。
丘上で大きな敵数体を相手に戦っている光景が目に入る。
さっき大剣を振り回していた人だ。けど明らかに敵に押されているように見える。
「大丈夫、あの人」
そんな言葉を出した。
「加勢しますか? お兄ちゃんが行くなら私も行きますよ」
「でも、あんな大きな魔物倒せるのか」
「いけますよ私もいます。それにもっと助けが必要ならアルミスとクルを呼べば良いです」
後押しになった声に従う。
「分かった。美鈴、援護頼むね」
「お任せください」
事の起こっている場所近くまで走る。
ある程度の距離を、魔法を使って数メートル跳び。空中で剣を両手に握り振り構える。
重力で落ちていく体に力を入れ、思いきり振り下ろし攻撃をした。
大きな魔物だったが今の勢いで倒せたようだ。大凡おおよそ大剣の人と戦ってある程度弱っていたんだろう。
「うぉ! なんだ⁈」
「加勢します!」
大きな魔物から離れ、美鈴は弓を構えて言った。
「誰か知らんが助かった! んじゃあよろしく頼む!」
ボクは剣で魔物達の脚に斬撃を入れていった。さっきと同じもの。
美鈴はボクとその人の援護を上手くやっている。
「あと一体だな。よし。あんた達少し離れてくれ!」
剣を腰の位置に回して構え。それに向かって走っていく大きな魔物。
ボク等はその場を離れてその光景を見ていた。
「よっしゃあ! 行くぜ俺の必殺技あ‼」
大剣を斜め上に振り上げた。
斬撃が大きく魔物を貫通して飛んでいった、それは残像が見えるほど速く。
合わせて衝撃波がここまで届いた。
ボクがやってたものと格が違うぞこれは。
「いやー助かった。ありがとな!」
「こちらも大きな魔物を相手に出来たので良い経験になりました。ありがとうございます」
「ありがとうございました」
ボクに続いて美鈴は礼の言葉、合わせて会釈をしていた。
「はっははそりゃあ良かった。とそういや急いでるんだった。あんた達またな! この礼はいつか返すぞ!」
そそくさと走り去ってしまった。
「……そろそろ帰るか」
「そうですね♪」
美鈴は楽しそうに返事した。
歩きながら夕陽色の背景を眺める。
ふと何かが遠くに見えた。
何だろう。遠すぎてよくは見えない。周りとは別の、異様なものが見えた。
「なにあれ」
「どうしたんですか? お兄ちゃん」
「いや、あそこに何か。あれ?」
美鈴の方を向いてから再び同じ場所を見ると何もおかしなものは見えなかった。
「何もないですよ?」
見間違いだったのかな。
「幻覚かな。はぁ疲れが溜まっているんだな」
「家でゆっくり休んでくださいねお兄ちゃん」
「うん」
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