第47話 大切なもの

「それでどうする? まだ倒していく?」

 目標は達成したけど戦いにはまだ不慣れなところがある。それにほとんど戦ってない。

「そうだね。ちょっとその辺で倒してくるよ。って言っても、倒しやすそうな魔物ばかりになるだろうけど」

「それで十分よ。それにたくさん狩って戦利品を売れば稼ぐことも出来る。つまり二度おいしいってわけね」

「すごい現実的だね」

「うちに貯蓄があるほど裕福じゃないから。お金は必要なの」

「う。なんか、そのすみません。食い扶持増やしちゃって」

「今更何言ってるのよ。壱曁達が気に病むことなんて一切ないわよ」

 笑っていた。

「ははは、ありがとう」

「それこそこっちのセリフよまったく。あ、そうそう壱曁に渡すものがあるんだったわ」

「ん、何?」

「渡すっていうか、あなたに魔法をかけてあげる。怪我しないようにね」 

「おーありがとう助かるよ」

「あなたに怪我なんてしてほしくないもの、このくらいの事は当然」

 ボクの胸に手をのせれば、忽ち体が徐々に軽くなるのを感じた。

「あー! お姉様、ずるいですよ!」

 それまで美鈴と会話をしていたクルがこっちに向かってきていた。

ところで何のことだろう、ずるいって。魔法をかけてもらうのがって事では無いだろうけど。

「ふふ。クルもまだまだね」

「うー。お姉様に先を越されました……」

「どうしたの? クルすごい悔しがっているけど」

「壱曁は読みが甘いわね。それとも、知っててかしら?」

「?」

 アルミスは不適な笑みを浮かべていた。

 胸に当て続けているアルミスの手を見て、そしてわかった。なるほどそういうこと。

「そろそろ離してもいいんじゃないかな」

「イヤよ。私、好機は逃さないもの」

 いつしかボクは体の自由が利かなくなっていた。

「な、体が動かないんだけどアルミスさん?」

「言ったじゃない。私は甘えたいって」

 顔が近づく。

「私の勝ちね」

 囁いた。

「何をする気ですか」

 ゆっくりとこっちに近づいてくる。

「そろそろ離してくれるとありがたいんだけど」

 反応がない。

「もう、壱曁に血を流してほしくない。もう大切な家族が居なくなるのは。嫌」

 唐突に声色を変えて言った。かすれた声で。

「アルミス」

 美鈴は足を止めた。

「大丈夫。居なくなったりしないから」

「……そうね」

 そう言って離れた。体の自由が利く。

「ごめんなさい」

 アルミスの隣に来て。

「お兄ちゃんに居なくなってほしくないのは私も一緒ですよ、アルミス」

「先を越されましたがお姉様私もみんなが大切ですから! お姉様だけじゃありませんから!」

「……クル、美鈴。そうよね、私だけじゃないわよね。みんなが大切なのは……ありがとう。みんなのお陰で元気がでたわ」

「もう、いきなりしんみりさせないでください!」

 それに笑いふと思い出したかのように。

「そうそう美鈴。今度こそあなたに甘えてもらうからね」

「え、いやですよ。どうして私なんですか。クルがいるじゃないですか」

「あなたに甘えてもらいたいの。抱き着いてくれても一向にかまわないのよ?」

「うぅ、嫌ですよ!」

 そう言いながらも嫌悪感を感じない。本当は嫌ではないんじゃないか。

「壱曁みたいに動けなくしてもいいのよ?」

「いーやーでーす! 何回言われてもあなたになんか甘えたくありません!」

「ひどいわ、あなたにいろいろしてあげてるのに……」

「ううぅ卑怯なんですよその言い方」

 美鈴以外笑っていた。

「でもこれだけはしておかないと」

 と、ボクに使用した魔法を同じ様にかける。

「止めないでくださいよ?」

「わかってる分かってる」

 一人でやるつもりだった、でも美鈴も一緒みたいだ。

 危険を伴うからせめて二人でいろって事なのか。

「終わり。いってらっしゃい。私はここで休憩しているから何かあったら呼んで」

「了解」


 そしてボク等は少し離れた場所で、魔物を探す。

「さっきの美鈴面白かったね」

「お兄ちゃんまで。もう!」

 妹をからかっていると。現れた。

「お兄ちゃん」

「うん分かってる。無茶はしないよ」

「躊躇しちゃ、ダメですからね。相手は容赦なく襲ってきます」

 言葉に重みを感じながらも距離を詰めていった。

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