第44話 無理のない生活

「ありがとう助かったよ」

 戦いに勝った。

こちらに致命的な被害はなく、皆無事。


 先程の事情を掻い摘んで王に説明しては、美鈴が抱えている兄の方を向く。

 気を失ったまましばらくは起きなさそうにしている。

「そうか……だから。すまない、迷惑をかけた」

 頭を下げる王。

「ねぇ、どうしてこんなことが起こったの?」

 アルミスは敵が団体で攻めてきたことについてアルクに聞いた。

「それがどうしてか分からないんだ、つい先日に和平を結んだのにも関わらずね。にわかに信じたくはないがしかし。……裏切られたのか」

 悲しい表情をとり距離の離れた所に倒れている敵を見る。

「何か裏がありそうね」

 アルミスの直感。数日程で裏切られるなんてのはあまりに不自然だと。

「僕たちは城へ戻ろうと思うよ、アルミス達も気をつけて。あーあと急な雨だったから体調の管理も」

「えぇ大丈夫よ、さようなら」

 アルミスがあいさつを済ませると、アルク等は王都へ戻っていった。


「はぁ。さあみんな帰るわよ、今日は随分と動いたからゆっくり休まないとダメね」

「お姉様そんなに濡れて。お姉様もゆっくり休まないと、ですよ?」

 その服に触れ乾かしながら。

「あらありがと。私はいつもゆっくり休んでいるけど?」

「それってお兄様とか美鈴の部屋でって事ですか?」

 そう笑いを浮かべる。

「えーそんなことないと思うわよ」

 クルから目をそらす。

「私の目を見て言えないんですね。仕方ありません、私が部屋に入って鍵をかけますね」

「合鍵は持っているわよ?」

 帰り道。くだらない事を言い合っている横で美鈴は兄を背負いながら歩いている。

いつもの元気な兄を思い浮かべながら。


 ここはベッドの上か。

毎回のように倒れてはみんなに迷惑をかけていて。少しでも倒れないようにしないと。

 起き上がるとアルミスが椅子に座ってこっちを眺めているのが見えた。

「おはよう壱曁。だいぶ動けるようになったかしら?」

 ボクはベッドから立ち上がって、ふらつくかどうか周りを見て確認する。

「大丈夫みたい。ごめん、また心配かけた。……それに」

 ナイフで刺そうとした事。

「本当よ。主に向かって刃物を振ろうとするなんて。でも許す、あなたが頑張っていたのを知っているから」

「……アルミスはボクが怖くないの?」

「あなたなんて脅威でも何でも無いわ。私を誰だと思っているの?」

「はは。そうだねごめん」

 苦笑混じり。

「まあでもあなたがどうしても心配だって言うなら」

 手を横に広げる。

「流れに身を任すほど疲れは溜まってないよ」

「あら残念」

「そういや、どのくらい意識失ってたの?」

「そんなに経っていないわ。数時間ってところかしら」

「良かった」

 ガチャッと扉の開く音がした。

 時間的に晩御飯が出来たのだろう。

「お兄ちゃん! 起きたんですね、良かったです。晩御飯が出来たので来てくださいね」

「わかったー」

「好機を逃した気分」

「アルミスの思う好機は来ないよー」


「おはようございます。お兄様、無事で何よりです」

「おはー。ありがとねクル。服も縫い直してくれたみたいで」

 さっきアルミスに事情を聴いた。

「お兄様の為ですからどうってことないですよ。へへへ」

「私お兄ちゃんを運んだのになー、褒めてくれませんねー?」

「美鈴もありがとう」

「言うのが遅いです」

「ごめんごめん」

 笑顔を見せてボクは席に座った。

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