第43話 支えあう家族。

 空が曇り、気づけば雨が降っていた。

 意識が朦朧とするなか突き刺した剣を眺めていた。

 しばらくすると数人の足音が聞こえてきた。壁の下から続く階段を上ってくる音だ。

「壱曁!」

 その声がした方を向く。

もう二人が階段を上がって少年を見る。

「「お兄ちゃん(様)」」

 呼んで周りの光景に目を向ける三人。

 血まみれの光景に思わず顔を背ける美鈴とクル。その二人に対してアルミスは壱曁を見て言った。

「ねぇ、壱曁。そろそろ帰りましょう? こんなところにずっと居てないで。アルクに報告して帰るわよ」

「…………」

 何の返答も返ってこず。

 アルミスは雨を気にも止めずに天井のある場所から少年に少しずつ近づいていく。

少年の手を引こうと考えたための行動。

 しかしながら、異様な雰囲気が少年の回りをずっと立ち込めている。

「……いちと?」

 手を伸ばせば届きそうなまでに近づいた時、少年は異様な笑みを浮かべた。

「……⁉」

 背筋に冷たいものが当たったような寒気に襲われ。まるで、いつもの少年とは違う誰かを見ているよう。

 目を背け少しずつ前を向き様子を見守っていた美鈴とクルにも、その不気味さが伝わるほどのものだった。

 しかしアルミスは下がることはなかった。大切な家族を一人にはさせないと。

そう思い前に一歩を踏み出す。

「壱曁は一人じゃない。みんな一緒に帰ってまた楽しく過ごそうよ。辛い事ならちゃんと話して」

「…………」

 無表情の少年の方へと歩き、手を握り。

「みんな、あなたの帰りを待っているのよ?」

 口角を上げた。

「…………」

 右手に持つナイフを掲げ。意味が無かったといえる勢いで、アルミスに向かって振り下ろした。

「――――っ⁈」

 驚き目を瞑るアルミス。

 瞼を開ければすんでのところでそれを止めていた。

「ごめん……」

 ナイフを辺りに投げ棄てては。

出血が多くうつ伏せに倒れかけたその体を支え受け止め。

「壱曁。頑張ったのね」

 頭をさすっていた。

「少し場所を移動しないとね」

 倒れた血塗れの人物が一つ。

それを遠ざけるように離れ、二人の方へ少年を腕に抱え行く。


 いつの間にか雨は止んでいた。

「お兄様を治さないと!」

「アルミスお兄ちゃんは。お兄ちゃんは……!」

「大丈夫よ。さっき手を握ったときに傷口は治したわ。でもこの出血量だし意識は持たなかったようね」

 向かうアルミスに近寄る、美鈴とクル。

「お兄ちゃん。私、何も……出来なかった」

 そう言って兄を見る妹。

「ではお姉様。私お兄様の服を綺麗にしますね」

「えぇ。お願いするわ」

 アルミスは少年を足場の石の上にそっと寝かせた。

 生活魔法の一つ、服の汚れを落とす魔法。それを唱えるクル。

 みるみる少年の服についた血などの汚れが落ちていく。

「美鈴。後は任せましたよ」

「え」

「え、じゃないですよ。さっき何も出来なかったって言ったじゃないですか。だからお兄様を背負ってください」

「クル……。ごめんなさい。私が下ばかり見てるなんてダメですね」

 出かかっていた涙を堪えて妹は兄を背負う。

「今回だけですから。本当は私の役目ですからね!」

「ありがとうございますね、クル。……でもお兄ちゃんは渡しませんから」

 笑顔でそう言った。

「はいはいそんなこと言ってないで早く降りるわよ二人とも」

 後ろの人物を横目にアルミスは急かし、この場を置いていった。

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