第42話 誰かの動き。

 相手がナイフを構え跳びかかり顔に刺そうと目の前まで来た瞬間、少年は足早に跳び下がっていた。

「どうして今のが避けられる!」

 未だに出血は続く。がしかし動く力が出てくる。

「…………」

 徐々に痛みに慣れ動けるほどになっていた。

 逃がさない。頭の中で反芻する言葉。

「っち、面倒だぜ。さっさと殺されやがれ!」

「…………」

 ただ無言で攻撃をかわし続ける。

相手が無謀なようにナイフを振るのを避け、無防備になる瞬間を待ち続ける。

「武器があんのになんで掛かってこないんだ?」

 後ろに下がった。その隙を見て少年は剣を握りしめ相手の懐に潜り込む。

「――っ⁈」

 間一髪のところで相手のナイフが少年の剣を防いだ。

 少年は透かさず自分の胸に刺さったナイフを引き抜き相手の眉間に向かって突き立てようとする。

 しかし気づけば脇腹にもう一本の相手の武器が刺さっていた。

「っへ。隙があったのはお前のようだな」

 更に出血し視界が揺らぎこのままではいけないと後退りする。

よろめき今にも倒れそうになる。

 ここで倒れてはいけない。やつを逃がしてはいけない。

倒れないように自分に言い聞かせる。

「っち、まだ倒れねぇのか。そこだけは評価してやるよ。だがなぁそんなんじゃあ俺には勝てねぇよ。無駄に立ち尽くすより寝転がっていりゃあ楽だぜガキ」

 左手に剣を、右手にナイフを握りしめて。

 痛みに慣れたとはいえ体がついてこないと意味がない。

 そこで腹のそれを引き抜き自分に治癒魔法をかけた。

がしかし傷口は開いたまま。

「あぁ言い忘れていたが、俺のは特殊でね。毒が塗ってあるんだよ」

 ニヤリと笑うその微笑みからは悪意その物が見てとれる。

「その毒ってのがね? 治癒を阻害するんだぁ。どう? 痛みに苦しむのは好きかい?」

 本性が現れたような喋り方をしている。

「…………」

「っち、何か言ったらどうだ。面っ白くねぇーなぁ!」

 一つ深く息をする。

 息を止め、相手の間合いに瞬間的に入り込む。剣を振り相手に防御させ。

「っ!」

 無防備になった膝に冷たい鉄を刺す。

「あぁあいってぇえ‼」

 瞬時ナイフを抜きもう片方の膝に刺し後退る。

 相手は立っていることが出来ずに膝をつく。

「いてぇえ。っくそ俺が負ける……のか?」

「…………」

 少しずつ歩いて近づく少年。

「あぁ。死ぬのか……俺」

 剣を思い切り振り下ろし浅い切り傷を入れた。

「ぐあぁ! ……さっさと殺しやがれ。くっそんで俺が……こんな。ほかの……」

 仰向けに倒れれば。見やすくなった胸部に剣を、突き立てた。

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