第41話 立ち上がる者。
「壱曁……」
足に力が入らず、追いかけることができないでいる。
遠ざかる見知った人影。次第に立っていることが出来ず、膝をついた。
「アルミス、お兄ちゃんがどうしたんですか?」
「お姉様?」
別の場所で怪我を治療していたクルと美鈴が向かってきていた。
「壱曁が……」
どこからか湧く不安と劣等感で足がすくみ、立ち上がれないアルミス。
立って壱曁のところへ向かいたい気持ちはあれど恐怖が襲う。
「……! もしかしてお兄ちゃんに何か⁉」
「壱曁が怪我を負って。そのまま敵に向かっていって」
立たなくてはいけないという思いだけが脳内を駆け巡る。
「お兄様は今何処にいるんですか⁉」
「王都の、壁の方へ向かった」
「早くお兄ちゃんを助けないと!」
「…………」
足が動かない。どうしても動かない。次第に俯き自分の脚を見た。
「お姉様しっかりしてください! このままじゃお兄様が危ないんですよ!」
危ない。その言葉でなんとか立ち上がることが出来た。
家族の一人すら守れなかった劣等感を抑え、走り向かう。
「――ごめんなさい。また迷惑をかけてしまって」
アルミスは走りながら言った。
「心配はいりませんよ。あなたは強いんですから」
「美鈴の言うとおりです! 今更ですがお姉様のお陰で私はここにいるのです。だから心配しないでください!」
二人の励ましの言葉がアルミスの頭の中で反響する。
劣等感を抱いていたからか、そんな言葉を求めていた。
「ありがとうね二人とも」
一人、少年が壁の上に立っている。
血だらけで倒れそうな雰囲気で、ナイフを投げた犯人と思われる者の前に立つ。
「っち、足の早いやつだ。なぁそんな血だらけで何が出来るっていうんだ。大人しく下がっていりゃあ良かったのによ。はぁ楽な仕事は無いってことか。ここまで頑張って来たんだろうけど済まないが引き返すなら今だぜガキ」
逃げ切られる前に追い付けたがしかし、出血で体力が消耗し過ぎている。
「……………」
少年は何も言わず立ち尽くす。息を整える為。
敵を逃がさないようにと呼吸を続ける。
「ち、無視か。どうやらやっぱり俺には楽な道が無いようだ。めんどくさいなぁ」
少年とその敵が対峙する。
時同じくして相手が跳び掛かる。
「……………」
それに動じず、剣を抜き左手に持つ。
「――――剣を出すのがおせぇよ! 俺の勝ちだ。そのまま苦しんで死ね‼」
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