第40話 守る代償。

 後ろに下がり体勢を整える姉妹。

「少しは休んだ方がいいんじゃないのか?」

 先頭で頑張って守ってくれていたアルミスにそう言った。

「壱曁……。ごめんなさい、私まで心配かけて」

「アルミスなら大丈夫だと思ってたよ。それに壁作って敵の王都侵入を遅らせたんだ。気に思うことはない」

 ボクの励ましに少し驚いたような表情をとる。

 それと同時に王さんと兵士達が攻めて行く、声と鎧の音が聞こえ。

音に連れられ前を向けば戦いが始まっていた。

「作ったって、私が?」

「それ以外に誰がいる」

 再び視線を戻すと兵達を見やる神妙な面持ちのまま。

「そう……。ねえ、まさかあなた達はこれに加わって無いわよね⁈」

 心配そうな顔でアルミスはボクと美鈴の方を向く。

「加わってるよ。王さんに支援を頼まれたし、ボクも何か力になれるならって思ったから」

 顔が変わる。

「駄目下がってなさい。これは戦争よ。あなた達二人が手に負えるものじゃないってことぐらい分かるでしょ」

「勿論分かっています。頼まれたのは怪我人を治す事だけ。なのでこれ以上前には出ませんよ」

 遠くで鉄の音が響き続く。

「あのアルクは何を考えてるの。こんな子供を戦争に巻き込むなんて」

「アルク?」

「王の名前よ」

 大きく溜めた息を吐いた。 

「壱曁、美鈴。くれぐれも無理だけはしないで」

「分かってる」

 時間が経てどもまだ戦いは続いている。

 しかしこちらの防衛が破られることは起きていない。ボク等は無事一難づつかわしていた。


「ありがとう助かった!」

「いえいえこんな事で感謝なんて要らないですよ」

 浅い傷を簡単な魔法で治していた。

「謙遜するな少年。俺らは”こんなこと”で痛みに苦しまずに戦えてるいんだ」

 そんなことを言っては背中を数回、軽くたたいている。

「少年。100貢献してるとまでは言わない。だけどな、頑張るその気概がある限り0はあり得ないんだ。そんな奴に感謝すらしないのはただの馬鹿野郎って事よ」

 嬉しいんだけど背中痛い。

「だからな少年。感謝されたら”どういたしまして”なんて適当でもいい。素直に言うんだ」

「どういたしまして」

「おう偉いな少年。それじゃあ俺は戦いに戻る。あんたらにこんな戦いはさせられねーからな! こんなこと言うのもなんだが引き続き他の奴等も頼んだぞ」

 走り去った。

 予定通り怪我で下がった兵士を回復させていた時。

兵士の怪我を治し終え、ふと思ったことをアルミスに聞く。

「そういえばさっき魔法の攻撃を受けていたって言ってたけど、何があった?」

 怪我をした部分に手を被せ魔法をかけながら。

「魔法だと思うけど。自分の弱みに付け込まれて、身動きが取れなくなっていたのよ」

 手を離す。

「ありがとうございます」

「どういたしまして。ほら立って」

「すみません。では戻りますあなた方もお気を付けて!」

 怪我が治るとすぐさま戻っていった。

「あんな大きい氷の壁作って守ってくれたけど」

 指す先に広がる、敵複数は氷結に呑まれた凹凸のある瓦礫の様な塊。

「実のところを言うと。ずっと幻覚を見せられていたから、こんな事になった覚えがないのよ」

「じゃあ無意識化で」

 となるとアルミス自身は何もする間すらなく襲われた。

仮にも魔法を教えれる程の人が、そんな無抵抗で抑えられるはずが無い。あり得ない。

 そうだ具合は。

「何ともない?」

「今はね。それにしてもいったい誰が事を企てたのかしら」

「敵兵の誰か、とか」

「あの距離で届くならもうとっくに敗れてるわ」

 なら魔法の効く範囲が狭くて、尚且つアルミスに一切攻撃させずに事を進めた。

そういう場所が何処かにあるとしたら。

「壁に隠れてアルミスの妨害を」

「……だとしたら街が狙われる!」

 一斉に振り向いた。

 瞬間、壁の上の方で何か光る。

それが敵だと感じたボクの体はもう動いていた。

 狙う相手はアルミスだ。

「危ない!」

 庇っては何かが体に勢い増しては刺ささる。

 血がどんどんと流れ出て、体が痺れる。

「壱曁! 壱曁しっかりして! 今魔法をかけるから!」

 アルミスは慌てて近寄ってきて言った。

手を差し伸べようとするアルミスにボクは意識を失いつつあった。

「あいつ……が……」

 力を込め、人影に指を差した。

「先に治さないと駄目よ!」

 焦っている声。

 その声に返事さえすることの無いまま、意識を失った。


 血を流しながら敵の元へ走り出す少年。

自分の体を気にせずに走り続ける者を見ることしか出来ない、アルミス。

「壱曁まって! まって……」

 そんな声すら少年には届かず。

 手を伸ばせば無意味に落ちるだけ。

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