第39話 大切な護りたいもの

 先制攻撃。

もう一人のアルミスが魔法を仕掛けてきた。炎と氷の塊数十個を飛ばす。

 それを防ぐように両手を前にかざして魔法を使う。

「――っ。どうして……!」

 未だ覚めない暗闇の中自分自身と戦い続ける。

「無駄事は切り捨てなさい。絶望するだけ」

「こと、わるわ」

「どうしたらそこまでに希望を持てるのかしら」

 攻撃を続けるもう一人のアルミス。

 次第に押し負けていく。

「あなたは負ける。全て捨てて楽になりなさい。それしか道は残っていない」

 体力と魔法の消耗で膝をつく。

「負け……ない。私はみんなを」

「その〔みんな〕って、誰のことかしら?」

「そんなの決まっているじゃない! クルと……あと。あれ……どうして思い出せないの……?」

 大切な二人の名前がまったく頭に浮かばず。

「やっぱり覚えていないじゃない。覚えていないってことは、どうなってもいいことでしょう?」

「どうして。どうして名前が」

「無駄よ。あなたは所詮妹と自分しか頭にないの。そう、あの悲劇からずっと」

 そう言いもう一人のアルミスは近寄って手を前に出した。

 詠唱し、止めを刺そうとしている。

「結局あなたは変われないのよ」

「……。結局、私……は」


「お姉様!」

 ふとそんな声が聞こえた気がした。

「しっかりしてください‼」

 また聞こえる。覚えのある声。

「お姉様、起きてください……」

 寂しげな声色が聞こえる。

「ク…ル?」

 いつしか妹の名前も忘れかけていた。

 クルを思い出した事で今のこの状況を理解したアルミスは立ち上がった。

 そして、手を止めていたもう一人に言葉を紡ぐ。

「私には優しくしてくれたみんながいる。傍で笑ってくれる家族がいるの。……例え名前を忘れてしまっても。絶対に裏切るような事はしない!」

 いつしか手を下ろしていたアルミスは目を見つめながら少し後ろに下がって、答えた。

「あなたはきっと後悔する……」

「後悔なんて、もうしない。後戻りなんて出来ないのだから」

「変わったのね」

 膝をつき座り込む。

「……みんなって。そもそもあなた。”アルミス”には友人が少ないじゃない」

 少し笑みを浮かべ続けざまにそう言った。

「それもそうね」

 いつの間にか目の前の少女は消え、辺りが光に包まれた。


「お姉様!」

 今にも泣きそうな妹の顔が目の前に。

「ごめんなさい。知らないうちに攻撃を受けていたみたい」

「お姉様ぁ!!」

 溜めていた涙が止まることなく流れる。

思いの丈を言うかのように姉を強く抱きしめた。

「また助けられましたね、ご無事で何より。ですが今度は僕達が助ける番です。戦闘は我々に任せて皆さんは下がっていてください」

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