第36話 王とアルミス
王都、城の中。入口で周りを眺めているとお付きの人が王さんを連れてきていた。
この人はボク等が来た時待つように言った人。
見るに老人の執事だ、身なりがしっかりしている。沿ってこういう人は手際が良いと思う。
「来てくれてありがとう部屋に案内するよ」
招かれた扉の先で本棚や丸い机、椅子や絨毯等の装飾が目に入る。この独特な匂いもまた新鮮に感じられるよ。
「どうぞ。腰かけてゆっくりしていて」
その声に手を合わす。
言われるがまま腰を掛ければ執事らしき人がこちらを覗く。
「少しお待ちいただけるとありがたい」
「「わかりました」」
反射的に返事をすれば美鈴も同じく言葉を交わした。
しばらく待っていると王さんが分厚い本を何冊か抱えて扉を開けて入ってきた。
「ごめんね少し手間取ってしまった」
「いえいえ大丈夫ですよ。それにしてもその本はいったい」
「あぁこれかい? ちょっと君達に聞きたいことがあってね。その説明に必要だったんだ」
と数冊の本を机に置いて椅子に座った。
「聞きたいことって、何かありましたか」
「いや今のところは平和そのもの。聞きたいのは君達の事」
「何か気になることでもあるんですか」
手に汗が滲む。緊張か、不安か。悪事を働いたわけじゃない。
ただこの場の空気に慣れていないだけだ。
「彼女達……。アルミスは昔あまり喋る方ではなかったんだ。だけど、今はあんなに楽しそう」
頁を捲ってる。
「私達が来てから変わった。ということですか?」
「うん。だから良かったら経緯を話してほしい君達自身も含めて。でも無理にとは言わないよ。ただ、アルミスの友人として少しでも事情を知りたいんだ」
「ならボク等を呼ぶよりアルミスに直接会って聞いたほうが」
「……ごもっとも。どうしてかな彼女と話すたびに罪悪感が湧くんだ」
唾を飲み込み呼吸を一回行う。
「もしかしたら何か、アルミスに悪いことでもしてしまったんじゃないかって。そう思うと話しかけづらくてね」
悪人って感じじゃないんだけどな王さん。
それに以前アルミスと話していて楽しそうだったし。
「経緯と言ってもそこまで大それたことはしていませんよ。ただ知り合う切っ掛けがあったそれだけです」
「ふむ。なら余程君達と気が合ったんだということだね」
「そうだと思います」
「疑っているような聞き方で悪いんだけどその切っ掛けというのは?」
「あぁそれは私の兄が路地にて襲われていたクルを助けた時です」
ボクと目を合わしては言葉にならない声が王さんから出る。
「教えてくれてありがとう。すまないね質問攻めで」
「いえ」
あと一つ答えないと。
ボク等の事どう言えばいいんだろう事実は話さずにぼやかして。それでいいだろうか。
かといって包み隠さず、という選択肢は無い訳だし。
「ボク等は。遠くからこの王国にやってきました」
不便だけどこんな形でしか答えられない。
「遠くからか。分かったありがとう」
一通りしたい話は終わったかな。
「だけどもし気が変わったとしたら、その時は詳しく聞いてもいいかい?」
悟られた。
「その時ははい、いつか」
空気を変えるように扉のノック音が聞こえた。
「どうぞ」
王がそう言うとさっきの執事らしき人がティーカートを押しながら入ってきた。
「こちらにて一時の休憩は如何でしょう」
「ありがとう頂くよ」
王さんと話ながらみんなの前に並べていった。
「これはなんですか?」
ボクがその執事らしき人に話しかけると王さんが楽しそうに答えた。
「このカップに入っているのはホットミルク、こっちのお皿に並べているのはティラミスというものだよ」
あーそうかティラミス。こっちにもあるんだ。
思いながらスプーンで一口サイズにして口に運ぶ。
「どう、おいしい?」
「甘くて美味しいです。ね、お兄ちゃん♪」
「そうだね。美味しい」
そう言うと王さんは笑顔で喋る。
「良かったまた食べたくなったら来てくれて一向に構わないよ。それに僕は君達と話をするのが好きだからね」
どうやら好意を持たれているよう。持たれて嬉しくないことはない。が、しかしこの人は王だ。
こんなに他人と接していて大丈夫なのだろうか。
「嬉しい限りですが王としての職務があるのではないですか?」
美鈴が聞きに入った。
「うん確かに仕事はある。でも仕事は溜めないのが一番ってことですぐに終わらせているんだ。仕事が終わって自室で一人過ごすのが多いと、寂しくてね」
「その為の私達」
「ああごめんよ。悪く言うつもりはなかったんだ」
「いやボク等も一国の王とお話が出来るのは嬉しいですよ」
社交辞令のような言葉を並べている。
「そう言ってくれると僕も嬉しいよ」
雑談で時間を過ごした。
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