第33話 練習に集中
帰る前に出店をまわった。
「やっぱり甘いものは欠かせないな」
果物っぽいのをアルミスの分も含めて買った。
「ありがとう。これ美味しいのよね」
これは桃かな一口サイズに切り分けてあるけど。
切る前のものが台の上に積んでいてその形で判断したが。
串に刺さった桃らしきものを持って帰路に就き食べ歩く。桃の味だ。
この世界で食べ慣れたものを口にすることができて嬉しかった。
串を近くのゴミ箱に捨てた。
これ遊園地みたいにどこでもあるな。広場に行った時もベンチの近くにあったし。
家に近づくと、ピアノの音色が聞こえた。
玄関の扉を開け中に入ると、シンメトリーの2階に上がる用の階段の右側、階段の右隣にピアノが移動している。
しかもクルが弾いていた。
「ただいま」
「ただいまー。そのピアノって2階の奥の部屋にあったやつだよね?」
「お兄ちゃん、アルミス、お帰りなさい。クルが魔法でここまで移動させたんですよ。帰ってきたらお兄ちゃんに真っ先に聴かせたいって言ってましたよ? あ、アルミス。朝食作ってくれてありがとうございました」
「どういたしまして」
「へー魔法で移動。そういやクルってピアノ弾けたのか」
「いえ、私がさっき教えました。それで今は練習中です。お兄ちゃん達が思ったより早く帰ってきたのでまだ終えていないんですよ」
「ふーんそうなのか」
聴いた感じ十分だと思うけど、当の本人はまだ練習したいのか続けて弾いている。
「ところでどんな魔法で?」
「クルいわく"少し大きな家具を動かすのに便利な魔法"だそうです」
「曖昧か!」
「フフ。あとその魔法は、大きすぎない物しか移動出来ないみたいです。見た感じでは"一旦消して指定位置で出現させる"そんな感じですね」
「あーなんとなく想像できた。凄いなボクも使ってみたいもんだ」
「私もです。何かと便利そうですし。そうだアルミス教えてください」
「唐突に振るわね。私よりクルに聞いた方が良いと思うわよ? クルが考えた固有魔法だし」
「?」
美鈴は少し不思議そうにしている。
「固有魔法?」
「その魔法他で聞いたことがなかったから。私が付けた名前よ。もしかしたらもう付いてるかも知れないけど」
魔法って曖昧なところあるよね。できるから出来るんだ、みたいな。
それはそうとクルにあいさつしてなかった。
「クルお疲れ様。順調?」
傍に行きそう言うと。
「…お、お兄様?!」
驚いてこっちに振り向いた。
どうやらボク等が帰ってきたことに気づいていなかったようだ。
それほど集中して練習していたんだろう。
「……お帰りなさいお兄様。練習を終える前に聞かれちゃいましたね。ごめんなさい」
「いやいや全然謝ることないよ。そもそも十分上手かったぞ! あとただいま」
励ますような言葉を掛けた。
「ありがとうございます」
クルは少し俯いた。
その後に顔を上げボクの目を見つめて、続けた。
「お兄様、私頑張りました! のでご褒美を下さい!」
両手を前に出している。しかし要求していない頭を撫でた。
「むぅーお兄様分かっててそうしないだなんて意地悪ですよ」
頬を膨らませ少し不満げな表情をとる。だけどすぐ表情を変え笑顔をつくっていた。
「でもこれも嬉しいので私へのご褒美として受け取っておきます!」
そう言って未だ見つめ続けているクルにボクは笑顔で答えた。
「何よりの言葉だね」
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