第32話 悪夢。

 これは夢だろうか。

暗い廊下に土足で立っていた。足を動かしてみると動くことが出来た。

 その足でゆっくり歩きながらボクは辺りを見渡す。

後ろは壁。

 夢だからか建物の作りがおかしい。長い廊下が真っ直ぐ伸びている。

 奥が気になり長い廊下を歩くことにした。


 しばらく歩いても薄暗いまま。

だけど辺りを見渡せる程には明るいからよかったといえるか。

 歩いてから数分が経過した頃部屋らしき空間に出た。廊下を歩いていた時より暗い。

微かに辺りが見える程度だが周りを見渡した。家具等が置かれた普通の部屋……か。

 部屋全体を歩きながら見回すと。

「あれは、人」

 微かに肩が物陰から見えた。唾を飲み込み、少しずつ近づく。

「し、死体……?」

 壁に凭れて俯きビクともしない人が座っていた。

 胸辺りに刺傷があり、そこから血の流れた痕がある。

 床には固まっていない血が溜まってる。

「う。夢とはいえ……」

 その場を離れさっきの廊下辺りに戻り廊下側にある壁に凭れて座った。

右手を首に当て、夢から覚めるのを待った。

「こんな夢早く覚めて」

 つい最近の事だ。よく分からない悪夢に近いものをたびたび見るようになった。

牢に閉じ込められた時もそう。こっちの世界に来てからこんな夢が始まったように思える。夢を憶え続けるのは難しいから曖昧だけど。

 しかし嫌な感じというのは結構、身に沁みるものだ。


 ふと右側の部屋の方を見ると明らかにさっきの死体が近づいている。今度は、机の脚に凭れ俯いていた。

「嘘…」

 ボクは立ち上がってその場を急ぎ足で立ち去る。廊下の奥に。もと居た場所に戻る方向。

 不意に足音が聞こえた。追ってきてるのか……。

怖くなり走ろうとしたが体が動かなかった。

「もう覚めて…」

 瞬間後ろから気配を感じた。

手足を動かせられないため振り返ることすら出来ない。

 瞑り周りを見ないように。何も見たくなくて目を閉じた。

なのに勝手に開く。

 すると目の前にノイズみたいなものが交じり不気味に笑みを浮かべる人らしき影が見えた。


「――――っは。あ、あぁやっと起きれた」

 目を開けると膝枕をされたままだった。

「悪い夢でも見たのかしら」

 ボクが息を切らしているのを見てアルミスはそう言ったんだろう。

 体を起こし座って、俯いた。悪夢のせいで余計に疲れが増している。

「何を見たのかは知らないけれど怖い思いをしたなら手でも握ってあげるわよ?」

「いいよ……ふぅ。そろそろ帰らない? 時間も時間だし」

 ボクは立ち上がってアルミスの方を見た。

「分かったわ」


 同じところを通る内に、帰り道をいつの間にか憶えていた。

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