第29話 甘えていい

「いやー、なんか癒されたよ」

 王都へ向かっている途中。アルミスに先導されながら草原を歩く。

といってもその隣をボクは歩いている感じだ。

 朝食はサンドイッチを食べた。

アルミスが即席で氷のイスとテーブルを作ったのには驚いた。

「早起きした甲斐があったわね」

「まだ眠いよ」

「もうすぐ王都よ。頑張って歩いて」

「あー。案外、王都って近かったんだな」

 気だるい。


 アルミスに肩を貸してもらいながらしばらく歩いて、王都に着くと鐘が鳴っていた。

その音で重かった瞼が軽くなった。眠気が少し抜けたようだ。

 肩から手を下ろす。

「この音は」

「鐘のよ、聞いたことあるじゃない。ちょうどお昼みたいね」

 気づけば昼になっていた。睡魔と闘っていたせいか時間の流れが早く感じる。

「どこからまわる?」

 アルミスがボクに問いかけた。

歩きながらその問いに合わせる。

「そうだなー」

 考えていると近場で焼き鳥のようなものが売られているのが目に入る。

 見て。

「あれ食べよう」

「串肉ね。この王都の近くで獲ることが出来る魔物のお肉ね」

 魔物。果たして美味しいのだろうか。

まぁ魔物って言っても普通の動物と同じような感じだし、それにそこまで不味いのは売らないはず。

そんなことを思いながら、ボク等はその出店に向かった。

 立てかけてある看板の文字がまったく読めない。

この世界の文字を読めるくらいにはなりたいけど覚える手段がない。

アルミス達に聞けば早いんだろうけど、なんて理由つけて良いものなのか分からない。

だから聞けないまま今に至るんだがこのままで良いんだろうか。

 もっとも、もう隠してる意味なんて無くなってる気はするけど。


 そう考えている間にアルミスが串肉とやらを買って、両手に一本ずつ持っていた。

近くでみるとただ焼かれているだけのように見えた。

何かつけているのかそれとも何もつけず食べるのが主流なのか。

「壱曁?」

「あ、あぁ。どうも」

「何か考え事?」

 食べ歩きながら会話を続ける。塩っぽい味が口の中に広がる。

「あぁ。まぁそんなところ」

「もしかして私のことでも考えていたりするのかしら?」

「考えてない」

「たまには私を甘やかしてくれてもいいのに。達者な口は何処に行ったのよ」

「知らない」

「はあ、まぁいいわ。隙があれば甘えにいくから」

「やめて」

「だって美鈴ったら私に甘えてくれないのよ? ひどいじゃない」

「さっきの話と何の関係が。美鈴なら褒めてあげれば甘えてくれると思うけど」

「そうなの? 良いこと聞いたわ。頭にいれておくわね」

 駄弁りながら歩いているといつの間にか見知った広場に出ていた。

 中央に噴水がある休憩の場所。前に座った同じベンチで一休憩。

「はあ。歩いただけで疲れた。ふぁあぁ、眠い……」

 静けさと共にうとうとと瞼が重くなる。

 そんなボクにアルミスは少し間を開けていった。

「ふーん。私の膝でよければ貸すけど」

「大丈夫……」

 溜まっていた疲れが座ったことによって少しとれ、同時に睡魔がやってきている。次第にふらついて横に倒れかけた。

「あらら無理しなくて良いのよ。おやすみなさい壱曁。……無理させちゃったわね」

 アルミスは倒れかけたボクを手で支えながらゆっくりと。頭を膝の上に乗せ、横に寝かせた。

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