第27話 寝起き

「…壱曁。起きて」

 ボクを呼ぶ声が聞こえてきた。

 体を揺さぶっているのはアルミスかな。声からしてアルミスが近くに居るのか、例の魔法か。

だけど、後者だと声と同時に揺さぶっているのが美鈴かクルになるんだが、そうなると声をかけるはず。

「起きてるなら早く返事しなさいよ……」

「今、起きました」

 瞼を開き、横を向いてから座る。アルミスは腰に手を当て見返していた。

「因みにあれは。頭に直接声を届けるのは魔法じゃないわよ」

「え、そうだったの? ボクの声も届くみたいだったからてっきり魔法かと」

「私が話しかけた時しか出来なかったでしょう?」

「あぁ確かに」

 考えてみればいつもアルミスからだった。

「これはね吸血鬼特有の能力ってやつよ、話したい相手と意思疎通が出来るの。まぁだから心も読めるわ」

「ほー流石アルミス、かっこいいね」

 それに少し戸惑って答えた。

「か、かっこいいのね。初めて言われたわよそんな事」

「特別感あって憧れる」

 下ろしていた手を前に出し、組んだ。

「特別ね。なんだか昔に言われていたとより良い意味に聞こえるわ」

「勿論。褒めてるんだからそう聞こえてほしいくらいだよ」

「相も変わらずね、吸血鬼好きさん?」

「ありがとう」

 呆れた顔をしてる。


「はぁ、まったく。話も済んだし出かけるわよ」

「え?」

「デートよデート」

「美鈴とクルは?」

「デートは二人でするものよ」

「そうじゃなくて美鈴とクルを二人家に留守番させても大丈夫なのかと」

「大丈夫、こんな森の中に入ってくる人なんてそうそういないから。それにあの二人だけならお留守番に問題はないわ」

 この屋敷の主だけあってか自信に満ち溢れた表情をしている。

「アルミスがそう言うなら。それはそうと二人には事情を話して……はいなさそうだね」

「話したら着いてくるじゃない」

「そうだね」

 二人ともまだ寝ている頃だろうな。

 窓の外はまだ暗い。

対してこの部屋はアルミスの顔の横で浮遊してる明かりで照らされている。それは小さくても十分で白く光を放っている。魔法の一種だろうか。

 そう考えているうちにアルミスが言い出した。

「準備が終わったら私の部屋に来て」

「おー」

 気の抜けた返事。アルミスは部屋を出ていく。

 欠伸をしつつ準備に取り掛かった。


「来たよー」

 寝起きもあってか気だるく気の抜けた返事ばかりだ。

それに比べてアルミスはボクと二人で出かけることが余程楽しみだったのだろうか。元気に魔法陣の上に立っていた。

 腕にカゴらしきものを通してかけている。

朝食用かも。美鈴とクルの分も作って置いてあるのかな。

「アルミスは優しいな」

「どうも? いきなりどうしたのよ?」

「美鈴とクルの分の朝食も作っておくなんて、って思って。その篭の中ってご飯だよね?」

「あ、うんそうだけど。ねぇあなた、実は吸血鬼なんじゃないの?」

 アルミスは嬉しそうな、しかし気になるような面持ちで言っていた。

「どうしてそうなったよ」

「あなたのその気遣いようがなんとなく、そう思わせる」

「何それ。ボクがもし吸血鬼ならアルミスに憧れる意味が分からないじゃん」

 苦笑いを返し、魔方陣の上に立った。

「でもそれなら。……あなた、どうやって生きてきたらそういう人になれるのよ」

「え、そんなこと言われても」

「不思議通りこえて不気味さを感じるわよ」

「そこまでか」

「いえ貶してるわけじゃないの。クルに近しいものを感じるというか、なんというか」

「はあ」

「でもまぁ嫌いじゃないわ。恨んできた人間達と大きく違ってね」

 ニッコリして目を瞑ると白いオーブのようなものがくるくると回って、ボク等は光に包まれた。

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