第26話 家族の灯火
「……ボクは」
ただ1人。剣を握りしめ、成していた魔物の死体が散らばるところに立つ。
怪我と返り血で赤く染まっている。
「お兄ちゃん!」
「お兄様!!」
順番にボクを呼ぶ声が遠くから聞こえる。
風でさざめく木々に草原の草。それだけでは美鈴等の声は掻き消せない。
声とともに美鈴とクルが駆け寄ってきて、アルミスは歩いてボクのところへ来るのが見えた。
「お兄様! カッコ良かったですよ!」
かっこいいと言われるようなモノじゃない。勝手に手が動き、勝手に足が動き。表情すらも自分のものじゃなかった。
ボクにはその時不気味にしか感じられなかった。ただひたすらに〔殺す〕という言葉が頭から離れず、殺意ある行動以外に何もなかった。
分かることがあるとすればこの現状、不気味以外に何か感じた程度。
「お兄ちゃん……。お兄ちゃんはお兄ちゃんですよね」
美鈴がそんなことを言ったのは初めてだ。
「……うん」
美鈴は不安そうな顔をする。
そんなことを話している間にアルミスが近くにきていた。
「壱曁は頑張ってくれた。それだけじゃない。一息ついて家に帰りましょう?」
この不調な空気を変えるべく言ってくれた。
場所を変え一休みし、家に帰った。
怪我もその時にアルミスに治してもらった。
「お兄様! 私、新しい料理に挑戦してみました! どうぞ、食べてください」
今日の晩御飯での出来事。
どうやらクルが新しく自分の知らない料理を作ったようだ。
和食かな。味噌汁と焼き魚が見えた。
しかし有り合わせだからだろうか、少しアレンジが加わっているようにも見える。
「私が有り合わせの食材でクルに伝授しました」
美鈴がドヤッとしている。自分の胸に手を触れ目を瞑り言っていた。
やっぱりそうだったね。
「お疲れ様、美鈴」
「ありがとうございます♪」
嬉しそうだ。
いつしか帰りがけの出来事がどうでもよくなっていた。
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