第25話 誰かの眼。

「お、兄ちゃん……?」

 それが起こったのは帰っている途中の出来事。

美鈴、アルミス、クルはその光景を見ることしかできなかった。

――――――


「美鈴、どうしたんだ急に」

 美鈴がひたすらに手を繋ぎたがっていた事をボクは聞いた。

「なんとなくです! 別に減るものでもないんですし」

「そりゃあ減ったら困るな」

 星空が輝く中で、そんな会話をしながら帰宅していた。

 それは突然の事だった。

魔物が一体こちらに飛びかかってきた。何故だろう見憶えがある。

もしかして昨日戦ったという魔物だろうか。

 その魔物が美鈴に飛びかかってきているのが見えたとき、ボクはまた体が反射するかのごとく魔物に刃を刺した。

「お、お兄ちゃん……⁉」

 美鈴は事に驚いたのか、転んでしりもちをついていた。

たぶんだが美鈴が魔物に気づく前。いや、それよりもっと前。

戦いに慣れてるはずのアルミスとクルですら気づく事のなかった魔物を、ボクは倒した。

「お兄様⁉」

 クルが振り返ってボクを呼ぶ。

「あ、りがとう。お兄ちゃん」

 唖然とした美鈴はそう言った。アルミスとクルも驚いた様子でいる。

「無事で良かった。けど、どうしてボクは……反応出来たんだ」

 誰にも分かるはずのない問いかけをボクは喋っていた。

 少し間を開け。

「壱曁。あなたいつの間にそこまで腕を上げたのかしら?」

 ボクは剣を握りしめ思考を巡らせ言う。

「考えてもわからない。ボクがこんなこと出来るはずがないよ」

「でも、現に出来ているわよ?」

「それが、わからない。ごめんなんか驚かせた」

 アルミスは不思議そうにボクの話を聞いていた。

クルは何か凄いものを見ているような目だ。尊敬の眼差しというやつか。こんなよくわからないものが尊敬されるとは。


 それからすぐ。帰る方向をアルミスが再び見て口を開く。

「! 向こうに魔物の群れが居る……逃れられそうにないわね。みんな気をつけて」

 帰り道を塞ぐかのように数十体の魔物の群れがこっちに向かってきていた。

「ここは私にお任せください。たまにはお兄様にかっこいいところを見てもらいたいので!」

 クルはそう言ってボク等の前に立ち目を瞑り杖を構えて詠唱を始める。

 全体から足の早いやつらが飛び出す。このままじゃ詠唱が間に合わないと直感しその時すでに、ボクは剣を握りしめてその敵に向かっていっていた。

「お、お兄様?!」

 目を開けたクルの視界にボクがいて驚いたのだろう。

「壱曁。あなたはいったいどうしたというの。いつもと、全然……」

「私にも分かりません。……お兄ちゃん」

 みんなの声を無視するかのようにひたすらに走っていた。


 何も考えず、ただただ剣を振り相手の息の根を止めている。

 少年は嗤う。無邪気な子供みたいに。

それを見た美鈴が独り言のようにいった。

「……お兄ちゃんを止めなきゃ」

「待って美鈴! 今行くのは危険よ!」

 少年の方へ向かおうとしていた美鈴の手を引き止めた。

「でも、お兄ちゃんが……お兄ちゃんが! 離してください!」

「ダメよ! 今行ったら確実にあなたまで危ない目に遭うわ!」

 引き離そうともがく美鈴の手をアルミスは離さなかった。

 それでももがく。止めに行きたい衝動で。

「お願いだから私の言うことを聞いて!」

「っ……」

 美鈴に言葉が届いたのか、未だ敵を殺し続ける少年のもとへ行くのをやめた。

「……ごめんな、さい」

 気づけば。少年は数十体の魔物の群れを殲滅していた。

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