第24話 無邪気な王
横に座っているアルミスに脳内会話を頼んだ。
一応、王に聞かれないためだ。手で合図するとアルミスはすぐ分かってくれた。人差し指で自分の頭を差しただけだ。
『何かしら? あなたから頼むなんて。…もしかして私に好きの告白?』
なんでそうなるんですかね。
そうじゃなくて、どうしてボク等の名前をあの王さんは知っていたのか聞きたかったんだよ。
それで念のためこれを頼んだんだ。
『そこは嘘でも、そうだよって言ってくれたら私は嬉しいのに』
そんなたちの悪い嘘は遠慮しとくね。嵌められるのが目に見える。
『つれないわね』
それでどうしてか、アルミスは知ってる?
『えぇ。…けど、教えてほしいなら条件があるわ』
条件つきですか……。何が条件?
『そうね~。んー。じゃあ、今度私とデートしてくれたら教えるわ♪』
え、あ前にそんな事言ってたな。そういえば。からかわれた記憶があるけど。
『教えなくてもいいのよ? どうする?』
うーん。ってすごくデートしたそうだなアルミス。へぇ……いいよ、わかった。
よくよく考えたら別に減るものじゃないしね。
『あら、いいの? 嬉しいわ。楽しみにしているわね、ツンデレ壱曁君』
最後余計だぞー。
それで。
どうしてボク等の名前を知っているんだ?
『昨日の朝ね、兵士と一緒に王が来ていたのよ。それで王に聞かれて答えたの。…別に答えてはいけないってわけでもないでしょ?』
……あーそういえば玄関でアルミス何か受け取ってたね。完全に忘れてた。
教えてくれてどうもです。
『ええ。美鈴から記憶が曖昧ってこと聞いておいて良かったわ』
……な! はめたな⁉
『ふふ、もう遅いわ。取り消しは無しよ』
そういってボク達は食事を続けた。
「壱曁君。別に作法を気にする必要はないよ?」
周りに合わせようとしながら食べていると王はそう言った。
「あ、すいません」
それ以外、基本的にみんな静かな晩御飯。クルも珍しく静かだ。
「ところでアルミス。どうだっただろうか、招待状の出来は?」
思った矢先に王さんが口を開く。
「良かったと思うわよ。それにしてもわざわざ招待状を持ってくるなんて、もの好きよねあなた」
「雰囲気は大事だからね!」
「ふふ、まるでどこかの誰かさんね?」
ボクの方を向いている。
「何。美鈴も喜んでただろ?」
「えーそこで私に振るなんて、お兄ちゃんサイテーですね。みそこないま」
「――それ以上はお兄ちゃんの”か細い心”が折れるからやめてもらおうか美鈴」
「あはは、仲良しはいいことだね。見ていて微笑ましい」
「あ、うるさくしてごめんなさい」
「僕は楽しくお喋りしている方が好きなんだ。だから、もう謝らないでほしいな」
「お兄ちゃんすぐ謝っちゃいますからね」
「誰だって謝罪くらいするだろー?」
「思いを込めて言わないと意味ないですよ?」
「込めてるとも」
「ホントですかねー?」
そう言って、じとっとボクを見つめる。
「……喋らなきゃからかわれない」
「ふふーん。お兄ちゃん、今度はそうきましたか」
みんなが笑う晩餐だった。
そのあとの事。
「壱曁君、美鈴ちゃん。良ければお話良いかい?」
帰る準備をしていたボクの方へ寄ってきて言った。
「はい、いいですけど。何か?」
王は子供が珍しいものを見るような目をする。
「その服はどこで買ったんだい?」
なんか期待の眼差しでボクを見ている。初めて服についてふれられた。
確かにこの世界でフードにジャージのズボンってのはやっぱり何か違うんだろうか。雰囲気とか。
でも美鈴はわりといいんじゃないかな。ワンピースって別に違和感ない。
「これはボク等の住んでいたところで売っていたものですよ」
「ほう! それは是非とも僕にその場所を教えて頂きたい! ……ごほん。良いだろうか?」
この王さん結構無邪気だな。妙に親近感がわくぐらい元気だ。
「すみません。今は買う事が出来ないんです」
流石に別世界の代物だなんて言えない。
「そう……か。それは残念」
すごく残念そうな顔をしているよ。
「じゃあ、今度暇があれば壱曁と美鈴でここに来てくれないかい?」
積極的な王だな。何かボク等に言いたいことでもあるのか。はたまたやってほしいことがあるのか。
少なくともこの王さんは悪者ではなさそうだ。食事の礼として誘いを受けておこうか。
『あら、私とのデートを忘れてはダメよ?』
わかってる。
「良いですよ。美鈴もそれで良い?」
「はい。特に用事はないですし」
美鈴はボクにそう言ったあとボクと手を繋ごうと手を伸ばしてきた。それを避けつつ返す。
「ということなので。後日お伺いしますね」
「ありがとう。ではその日を楽しみにしているよ」
その後。
アルミスが先頭にみんなが帰ろうとしている中最後王さんに礼をしてみんなについて行った。
美鈴はまたもや手を繋ごうと手を伸ばしてきた。それを避けているうちに疲れて手を下ろす。
そうするとすぐに美鈴は獲物を捕らえるかの様にボクの左手を両手で掴んだ。笑顔を見せながら。
そのあとしばらく放してくれずのまま。
けれど美鈴が楽しんでるならそれで良いと、なかなか離す気がでなかった。
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