第22話 目覚めのハグ
椅子に座り目覚めを待っている。
「……お兄ちゃん。…お兄ちゃんは私が守るんです。……だからお兄ちゃんは…きっと大丈夫。絶対大丈夫」
そう願いながら兄の手を挟み、両手で握る。
「う…」
横で寝ている兄の手を握る妹。
心配な感情が心に満ちている。起きないはずがないと思いつつもどうして起きないのかと自問自答を繰り返す。
「うう……」
「お兄ちゃん…早く起きて下さい。みんな心配してますよ…」
そう言葉を残し立ち上がろうとした。
その時にちょうど、目を覚ました。
「み、すず…?」
少女の目から涙が流れる。心配で強張っていた感情が涙として流れていく。
感情に身を任せた妹は、起き上がろうとしていた兄に抱きついた。
「どうしたんだいきなり……と言うわけでも、なさそうか。自分の部屋で寝ているってことはまた倒れでもしたのかな。心配かけてごめんね」
「お兄ちゃん…。起きるのが…遅いですよ……」
美鈴は涙を流していた。よほど心配してくれたんだろう。
「ごめんごめん。…ところでどのぐらい寝てた?」
少しくらくらする頭を抱えてボクは喋った。
美鈴はそんなボクから少し離れて言った。
「…倒れたのが昨日の昼頃です」
「そうなんだ。ってことは…1日近く寝ていたのか。…自分の体力がついていけてないせいかな」
ボクは壁にかけられた時計を見つつ、倒れた原因を一つ口に出した。
「お兄ちゃん。昨日、最後に戦った魔物を…憶えていますか…?」
美鈴にそう言われ記憶を探る。
しかし思い当たるものがない。
「ごめん。覚えてない」
「そう…ですか」
美鈴は少し不安そうな表情をしていた。
何があったのか美鈴に聞こうと口を開く。
「昨日ってな――」
言いきる前に頭痛が走った。
ボクが苦しそうな顔をすると美鈴が焦って近くに寄ってきた。
「お兄ちゃん!」
その返事を、少し合間を開けてから返した。
「あ、あぁ。大丈夫。…ところで昨日、何があったんだ?」
やっとの思いで聞くことが出来た。頭を押さえながら。
「昨日…。お兄ちゃんはその魔物を倒したんです。その時……お兄ちゃんに近づいたら。…お兄ちゃんは嗤っていました。何かがおかしそうに…。だから、心配で…!」
「そうなんだ。ごめんね全然覚えてなくて昨日の記憶が曖昧で。そのうち思い出せるといいな」
いつの間にか頭痛が消え、普通に話せるようになった。
「お兄ちゃん…」
そんな声を聞いたあと、ボクはベッドから降り立ち上がってドアノブに手をかけた。
「お兄ちゃん。どこに行くんですか?」
「ん、あぁ。美鈴の淹れてくれたお茶を飲もうかと」
「それなら…私も行きます。ちょうど作った分が無くなっていたので」
「そうだったのか。それは助かるよありがとう」
「へへへ」
美鈴は笑顔でそう言いボクの後ろについてきた。さっきと比べて元気が出てる。
こっちの方が美鈴らしくて良いな。
冷えた緑茶を口に含み、飲み込む。
「美味しいですか?」
「うん」
美鈴に向かって笑顔をつくると喜んでいた。
「良かったです♪」
「あぁ、そういやアルミス達は?」
「買い物だそうですよ?」
……買い物って前に行ったような記憶があるが。
「一昨日買い物に行ってなかった?」
「買い足しのようですよ」
ふーん、と言ってボク等は部屋に戻った。
アルミス達が帰ってくるまでボクはPCでゲームをしていた。
「うう、そんな場所から射ってくるかよ普通…」
ゲームの話だ。
「はぁ、4位か。微妙だなぁ」
ネットが繋がらなかったらこんな暇があるときボクならずっと寝ていたんだろう。
ここに来て後悔のない選択肢を選べただろうか。
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