第21話 ナマモノの感触。
「今日は久々に依頼受けに行こうかと思うんだけど。みんな行く?」
朝食後、ボクはみんなに言った。
「私はお兄様についていきます! 何かあっては大変なので」
「私もクルと同じで行きますよ、お兄ちゃん」
「この流れは、私も行った方が良いかしら?」
アルミスはそう言って頬杖をついている。
頬杖ってあまりよくないと聞く。……とまぁそれはいいとして、ボクは適役な返事をした。
「来てくれたら助かる」
そう言うとアルミスは分かりやすく嬉しそうにしている。
やっぱり行きたかったようだ。
「分かったわ。じゃあ仕度をしてくるわね」
そういや、アルミスはまだギルドに入ってなかったな。後で誘ってみよ。
いつも通り、片道転送を使った。
久々のギルドハウス。いつ見てもこの装飾には感動するよ。
こういうの好きだから自然とやる気も出る。そう思いながら、ボク等はギルドハウスの扉を開けて中に入った。
「何のクエストする?」
ボクはみんなに聞く。真っ先にクルがクエストを探して見せてきた。
「指定数の……魔物退治?」
避けてきた依頼内容。
ボクはこの世界の住人じゃない上、小心者だ。生き物を簡単に殺せるほどサバイバーじゃない。まぁそれは美鈴もそうだけど。
だけど美鈴は小心者じゃないとボクは思ってる。
現にボクが危ない目に遇ったなら美鈴は躊躇せず助けるだろう。過去の記憶が曖昧なボクでも、1年分のしっかりした記憶で図れるほどに美鈴はボクを、たった一人の家族を大切にしている。
と言っても今は家族が仮だとしても二人増えた。心に余裕を持てたんじゃないかな美鈴は。
そんなことを考えたあとに続けて言った。
「うーん。魔法の練習をしたとはいえ、戦いなれてないんだよな」
「お兄様。優しいのですね」
少し期待に想いを向ける表情が見てとれる。
「違くてね。慣れてないだけだよボクは」
「壱曁ならすぐに慣れると思うけど? あーあとこんなのもあったわよ」
アルミスが何枚か依頼の紙を腕に抱えてボクの方へ向かい、紙を差し出す。
「そうかなー」
ボクは半信半疑でそれ等の依頼を受けてみることにした。
「お兄ちゃん……」
王都を出て少し歩いたところだ。
一つ、クエスト内容はこの辺に居る魔物がたびたび王都に入ってきて危ないので事前に倒して数を減らしてほしい、とのことだ。
他も似たようなものだったから一応まとめて受注だけはした。
「お兄ちゃん。大丈夫ですか…?」
「あぁ、大丈夫だよ。…それに、こういうのを望んだのは他でもないボクなんだから。ある程度は慣れないとね」
「――――任せてください美鈴! もしもがあっても私がお兄様を守りますから!」
アルミスと一緒に周りを見渡していたクルは美鈴の方へ歩み寄ってそう言っていた。
「ありがとう」
「…クル。ありがとうございます」
「へへへ♪ いいんですよお兄様、美鈴」
「あら、私を忘れられては困るわよ?」
アルミスはそう言って大きく分厚い魔法書を宙に浮かせ、戦闘態勢に入る。一方でクルは杖を持ち、美鈴も弓を手に持っている。
ボクは少し前に進みみんなと離れた。剣が当たらないようにするため。
「ゴーレムが接近中。気をつけて」
アルミスのその声でボクは持ち手に力を入れる。
「それじゃあ、援護お願いするね」
後ろを向くと不安そうな顔を美鈴はしていた。
歪に積み重なったレンガの様なそのゴーレムは土属性だろうと思い同属性の魔法を剣先に念じる。これで攻撃力が上がるはずだ。
ボクは思い切り、こっちへ歩いてくるゴーレムに向かって下から斬り上げる。
思ったより傷が深かった。
立て続けて上から斜め下に剣を振り、ゴーレムの体に傷をつけた。
「お兄ちゃん! 避けてください!」
美鈴に従いゴーレムの視線の横に走る。その瞬間に矢を撃ちゴーレムを倒した。何とか一体か。
美鈴の助けもあって思ったより楽だ。
「流石はお兄ちゃんですね! カッコ良かったですよ♪」
さっきとは打って変わって笑顔でそう言っていた。
両腕で小さくガッツポーズしながら。
「ありがとう。でも美鈴の方が凄いよ。一発で倒すなんてさ」
「お兄ちゃんの攻撃があってこそです!」
「…壱曁! 後ろ!!」
アルミスの言葉にボクが前を向くと肉食の熊のような魔物が飛び掛かってきていた。
ボクはそれに合わせるかのように首元から足に向かって剣を片手に、深く切りつけた。
返り血がボクの顔に、服にかかる。
ふと何かが思い出された。頭の中に薄く流れてくる。
「危なかった。大丈夫? 壱曁」
「ごめんなさいお兄ちゃん!」
「お兄様っ!!」
切られた魔獣は倒れ血が散乱していく。異臭を放ちながら。
俯きそれを見ていた。
持つ剣に入れていた力はいつしかなくなり、剣を落とす。
瞬間、頭痛が走り両手で抱える。鍵をかけていた過去の記憶か、……別の何かが。
走馬灯の様なものを観た。
――――――――
薄暗い石に囲まれた部屋。揺らぐ電球が傘無しで一つ。
テレビの砂嵐のように耳に鳴り響く雑音。視界すらテレビ越しのよう。
薄く、うすく。……消えていく。
「た…す……け…て…。いや…だ。いやだ…! ここから出して!!」
ドアを叩く音が暗い廊下に響く。誰も居やしない廊下に向かって叫んでいた。
消えていく。何もなかったかのように。
――――――――
「…………」
少年は笑みを浮かべる、頭を抱えたまま。
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