第16話 訓練生と不敵の教官

「ふわぁー」

 手を伸ばし伸びをしていた。

こっちに来てから最近体ばかり動かしていたせいか、肩が痛い。

 ボクは美鈴を起こさないように、ベッドから降りて寝起きまなこでアルミスの部屋へと向かった。アルミスに頼み事があったからだ。

 頼み事。ボクはこの世界に来てから魔法とかを少し見ただけで、使ったことがない。

ついでに雑魚呼ばわりされたからな。だから魔法を多少なりと覚えれば役立つかと思い、今足を運んでいる。

 階段を上がって中央の両扉の左片方を開け、中に入った。

 奥まで歩き扉をノックを三回。

「起きてる?」

 中でゴソゴソと音が聞こえる。今起きた感じのようだ。たぶん。

「ふぁあぁ、入っていい~よ~」

 ボクはその声とともに扉を開け中に入った。

寝間着を着たアルミスが、ベッドの中央に座っているのが見えた。

 寝間着か。寝るときわざわざ着替えるのが面倒なボクは、普段通りのジャージだなそういえば。

 着崩れしているしボクと同じ目のようだ。

その様子を見て、ボクは起き抜けに何か提案することにした。

「…ねぇ、いったん顔洗って何か飲もう?」

「ふぅぅあぁぁ。うん、そうする~」

 やっぱりなんか口調変わってる。寝ぼけてるな。


 ボクとアルミスはキッチンに行った。アルミスが顔を洗っている間に緑茶をコップに注ぐ。

美鈴が作ってくれてたものだ。

 アルミスは顔についた水滴を近くの棚に置いてあったタオルで拭き取り、緑茶を口に運んだ。

「へー、これが緑茶。美味しいわ。紅茶と違った味わいね」

 あ、口調が戻った。やっと目を覚ましたか。

「そう。良かった」

 そういや、冷蔵庫がないこの世界ってどうやって保存してるんだろうか。

氷とかなら魔法ですぐ作れそうだけど。

「食べ物の保存とかってどうしてるの? 冷やすとか」

「だいたいは倉庫に置いているわ。冷やして保存したいなら氷を作れば。どうしてそんな事を?」

「いやね、ボクがもと居た家では冷……やっぱなんでもない」

「?」

 危ないあぶない。

冷蔵庫なんて言ったらまた不思議がられる。一応でもある程度隠さないと、一応。

「っと、話が逸れたところでもとに戻すと」

「まだ何も言ってなかったような気がするけど?」

「あぁそうだった」

 コップを台に置き、言った。

「魔法を教えてほしいって思ったんだけど、良いかな?」

「魔法? …ふーん、別に良いけど。どうして急に?」

「え。あぁただ単に魔法を使いたかったからだよ」

 ボクはそう言いながらテーブルに凭れアルミスの方を見ると、微笑んでいた。

「相変わらず不思議なヒトね」

 結局不思議がられたな。

「まだ会って一日しか経ってないけどね」

「ふふ、まあいいわ。それで? 何が知りたいの」

 そこまで考えていなかった。魔法を覚えたいしかなかった。

「うーん。便利なのとか戦闘系なのとかの一般を…」

「わかったわ。じゃあ、朝食前の準備運動としましょう」

 なんか楽しそう。良かった、嫌がられるとやりづらいからな。


 外に出た。庭で訓練することになった。そりゃそうか。

「あれ、着替えないの?」

「…ここで脱げっていうのかしら? それあなた、よほどの変態ね」

 少し馬鹿にしたような顔をとっている。

「そんなこと言ってない」

「冗談よ。もう庭に出ちゃったし少し面倒なだけ。この格好、何か気にくわないかしら?」

 着ている服を見下ろしながら疑問をなげてくる。

「特にこれといって気になることもないけど」

「なら問題ないわね。始めるわよ練習…」

 そうして。

生活魔法は簡単なものを一通り教えてもらい、戦闘魔法を覚えるべくアルミスの授業を受けていた。

「戦闘系でもやっぱり、さっき言った基礎の基礎。火、水、木や風、土、光、闇、無。その応用になるの。…あー言い忘れていたのだけれど。無は分かりやすいように言い換えて”特殊”と言ったりもするわね」

 そうなのか。ややこしそうだな。

「じゃあそれぞれイメージしてみて。壱曁なら簡単なはずよ? ……あと、くれぐれも怪我しないように」

 どういう理屈だろう。と思いながらそれぞれ想像し具現化してみる。

 火は炎を指先に着火させるイメージ。火傷した。水は指先に水玉をイメージ。ひりひりする。そんな感じで丸を中心にイメージしてみた。

 無では貰った小さな氷の球体に作った傷を治してみた。

「だいぶ危なっかしいけれど、基礎の基礎は上々ってところにしておくわ」

「アルミスのお陰だね、ありがとう」

 そう言ってボクが微笑むと、アルミスも微笑み返す。

「こちらこそ。だけどあなたはまだまだ初心者。本番はここからよ?」

「うん知ってた。マナ欠損症とかにならないことを願う」

 一日中寝たきりで動けないとか嫌なのでね。

「マナってのが何か知らないけれど、寝たきりになったら介抱してあげるわよ」

「ありがとう…?」

 で、良いのかな。

「ふふ、それじゃあ20程の魔法を頭に叩き込んであげるわ」

「え…」

 ボクは少し後ずさり言った。

「おてやわらかにお願いします…」


 2~3時間をここまで使ったのは初めてだ。

といっても20も覚えてない上に途中から上手く出来なくなっていたが。

 疲れて動きにくい体をアルミスに支えてもらいながら、ダイニングに行き朝食を取った。


 朝食後。美鈴に何やってたのか聞かれ、責められ続けた。

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