第9話 はなさない
「クエスト行きましょう!」
次の日の出来事。
寝そべっているボクに言ってきたのはクルだ。
「どうした急に?」
「お兄様とクエストに行きたいのです!」
「はぁ。まぁクエストはしないとだけど、早くないかな?」
と、タオルケットに隠したスマホで時間を確認した。5:00ぐらい……うん早いですね。
「お休み……」
そう言ってその布に頭を入れた。
「寝ちゃダメですー、起きてくださーい!」
そう言って手を引っ張ってきた。このまま引っ張られるとベッドから転落する。
「落ちるから引っ張らないでいただきたい!」
「じゃあ起きてクエスト行く準備して下さい!」
起きないと落ちるなこれ。
「わかったわかった。だから引っ張るな」
「早く準備して下さいね♪」
「はいはい」
体を起こし、美鈴をおこそうとした。
「美鈴ぅぅ。……ちょっとなんで引っ張るの、クル…」
「美鈴さんは寝かせておきましょう!」
「どうして?」
「たまにはお兄様と二人でお出掛けしたいのです!」
たまにはって。
「まぁいいよ。じゃあ行く準備するね」
美鈴にはメールを送っておけばいいか。後でいろいろ言われそうだな。
準備を終え、椅子に座って足を揺らしているクルに声をかけた。
「準備完了。行くとしますか」
「はい‼」
妙に元気だな。昨日はこの宿に帰ってからもほとんど喋っていなかったから元気が無くなったのかと思ったが。
ギルドハウスについた。
そういや、このギルドの建物ってギルドハウスって言うみたい。地図に書いてた。特にひねった名前じゃないんだ。
ギルドハウスに入って前に見えるのがギルド新設所、右側にあるのが検査所。そして左側にクエスト受付所がある。
一ヶ所で済ませてくれないのが面倒だったな。
「どうしたのですか? お兄様」
「え? あ、いや。少し考え事をしてた」
「あやしいですね~。何かやましいことでも考えてたんじゃないですか~?」
と、ボクを見てきた。変なテンションだけどどうしたんだ。
「ないよ」
その後にボクは間を開けて言った。
「ねぇ、何のクエストにする? …うーん、これとかいいんじゃない?」
「クエストは決まってます!」
「おぉそうなのか。どんなの?」
「お屋敷のお掃除ってやつです。これです!」
クルはクエストの紙をボクに見せてきた。準備万端だな。
掃除か。出来なくないからそれでいいかな。
「じゃあそれを受けるか」
「もう受けてます!」
早。ここに来る意味無かったじゃん。
「場所は森の中で、歩いていると古いお屋敷が見えてくるそうです」
「そう。じゃあ行こう」
「えへへ、楽しみです…」
「楽しみって掃除が?」
「いえ、気にしないで下さい!」
場所も調査済みで楽しみときたか。何かする気か……?
森の中。クルは手を繋ぎながら歩く。
「ねぇ、どうしたの? さっきからずっと手をつないで」
森に入る前から。
「逃がさないように、です♪」
やっぱり変だ、どんどん増している気がする。まるで他人じゃないみたいに絡んで。
しばらく歩いた。
「着きました。ここです」
ここか。それとやっと離れてくれた。なんか美鈴みたい。
「お屋敷と言うだけあるな。それで掃除は館内全部?」
「そう……みたいですね。……です…ね」
大変だな。手早く済ませるか。
「よし。じゃあまずは玄関入ってホールから掃除するか」
「ホールがあるってわかるんですか?」
「勘だよ。だけどこれだけの大きさならホールはあるかなって」
前は好きこのんで屋敷の画像をよく漁っていたな。それで大体の構造を知ったのかもしれない。
そう考えつつ中に入って掃除を始めた。
実際に屋敷を見れたのが掃除をする上で楽しいといえる。
がしかし。疲れがだんだん溜まっていく事で、掃除を早く終わらせたいと考えるのがほとんどになっていた。
掃除……終わった。体力がもうない。限界だよ。
いろいろ開かない場所とかあったからそこは省いて掃除を。その分楽は出来たけど。
おかしい依頼者が全く姿を現さなかった。こんなことあるのか。それともこれが普通なのか。
「クルー! こっち終わったよー……」
あれ、返事がない。遠くに行ったのかな。
「おーいクルー?」
ここにもいないな。どこに行ったんだろう。
「……お兄様。私の……フフフ。へへ」
背後から声が聞こえた。それと同時に何ともいえない恐怖を覚える。
「そこにいた、んだ――」
急な睡魔がボクを襲いその場に倒れた。
「……お兄様はこれで。ずっとずっと。ずっとずっとずっと一緒ですよ♪ へへへへ」
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